本と読書をめぐる冒険


by silverspoonsjp
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30

スーパートイズ/ブライアン・オールディス著

  表題作の「スーパートイズ」は3章からなる中篇小説。パパとママ、クマのテディに囲まれて暮らすディヴィッドは、母に愛されようと、いつもけなげに振舞います。母モニカも、何とか彼を愛そうとはするのですが、子ども時代に永遠に閉じ込められたディヴィッドを見ると、思わず後ずさりしてしまうのでした。

 ディヴィッドは窓の外を見つめていた。「テディ、ぼくがなに考えてるか知ってる?ホンモノとホンモノでないものをどうやってくべつするの?」
 クマはいくつかの選択肢をあれこれ探った。「ホンモノはいいものだ」
 「時間はいいものなのかな。ママはあんまり時間が好きじゃないみたい。こないだ、何日もまえのことだけど、ママは時間がただすぎていくだけだって言ってたよ。時間はホンモノなの、テディ?」
 「時計はときを告げる。時計はホンモノだ。ママが時計を持ってるってことは、きっと時計が好きなのさ。手首にもダイヤルのとなりに時計をはめてるだろ」
 ディヴィッドは手紙のうしろにジャンボジェットの絵を描きはじめていた。「きみとぼくはホンモノだよね、テディ?」
 クマの目はひるまずに少年を見つめた。「きみとぼくはホンモノさ、ディヴィッド」 このクマは慰めるのが得意なのだ。


 設定よりも、セリフで読ませるタイプのSFです。御察しの通り、ディヴィッドはアンドロイド。彼は自分を人間だと固く信じていて、いつかはママが振り向いてくれることを願っている。その切なさに、読んでいるこちらの胸が痛くなるほどです。ディスクが再生する、永遠に続く心地よい夏の幻影。まやかしの邸宅。そんなものに囲まれて暮らすママは、人間でありながら、読み手にはアンドロイドのようにさえ見え、それもまた痛々しい。
 スタンリー・キューブリック監督は、この作品を長編映画に仕立てようと考えて、あれこれプランを練りました。その辺の事情が、最後に1章設けて書かれています。キューブリックはこの話を『ピノキオ』になぞらえようとし、SF大作映画の方向へ持っていこうとしていたようです。かたや原作者のオールディスは、この物語を「自分の内なるものを知らないために苦しむ」物語であり、「われわれはみな、どの程度まで機械なのか?」という問いを突きつけられ、その後に、単純な物語が残る…と考えていました。
 結局、キューブリックの死によって映画化権はスティーブン・スピルバーグに移り、2時間半の大作『A.I.』となって公開されましたが、結局、母と子の絆に話の重心が移ってしまい、ちょっと残念でした。

中俣真知子訳
ISBN 4‐8124‐0738‐9
182 x 128  363p  竹書房2001年


MORE
・P.K.ディック 『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』
 人間とは何か、自分にさえ確かにはわからなくなってくる、迷宮のような物語。 

・芦奈野ひとし『ヨコハマ買い出し紀行』
 こちらもロボットが主役の物語。ただし、本人も周りも、特に気にしていない模様。上記の文章中、キューブリックは「アメリカ人はロボットを脅威としか見ていない。ほんとうにロボット好きなのは日本人だ」と述べています。アメリカ人の方はともかく、日本人の方は当たってるのではないでしょうか。
[PR]
by silverspoonsjp | 2004-03-30 23:48 | センス・オブ・ワンダーの本