本と読書をめぐる冒険


by silverspoonsjp
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いさましいちびのトースター/トーマス・M・ディッシュ著

 通勤電車でへとへとになったり、心ない電話の応対をしたり、嫌な目に遭うと自分の心もすさんでしまいがちです。そんな時この本を読むと、心底ほっとします。

 お話はとても単純。美しい森に囲まれた夏の別荘で働く5台の電気器具は、とほうに暮れていました。もうまる2年(時間にうるさいラジオに言わせると2年と5ヶ月と13日)も、だんなさまがお見えにならないからです。自分たちは見捨てられたのではないか…。そんななか、一番ちびのトースターが、自力でだんなさまを探そうと提案します。
 ほかの4台の電気器具-電気毛布、掃除機、電気スタンド、ラジオと共に、車輪やバッテリーを捜し出し、かれらは見知らぬ都会へと向かいます。
 さまざまな出来事や危険にさらされながらも、だんなさまに会いたい一心でがんばる電気器具のけなげさに、心を打たれずにはいられません。
 話のあいまあいまに出てくる、電気器具なら考えそうな描写も微笑ましいものです。

 でも、このお話を聞いている小さな電気器具たちにいっておきます。ぼくもまねをしてみようという気になっても、これだけはくれぐれも注意してください。電気はとても危険なものです。古いバッテリーをけっしておもちゃにしてはいけません!知らない差し込み口にけっして自分のプラグをつっこんではいけません!それから、もし自分の住んでいる土地の電圧が何ボルトなのかよくわからないときは、かならず大きな電気器具にたずねるのですよ。


 
 古い電気器具を捨てるとき、誰もが心の奥底で感じるであろう後ろめたさを解消してくれる点も、なごみ感の秘密でしょうか。長崎訓子さんによる、チャペックの本の挿絵みたいな可愛い装画もポイント高しです。巻頭や本文中の詩も含めて、浅井久志さんの訳文はとてもこなれていて読みやすいです。  

浅井久志訳 
ISBN 4‐15‐011167‐7
ハヤカワ文庫 158p  早川書房 1996年

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・パット・マーフィー 『ノービットの冒険-ゆきて買りし物語』
 なごみ系SFの代表格はなんといってもこの作品。タイトルはもちろん、『ホビットの冒険~ゆきてかえりし物語』からのもので、キャラクター設定などを借りていますが、ただのパロディとあなどってはなりません。冒険好きのあなたには絶対おすすめの1冊でございます。
いま気づいたけど、これも『いさましい~』と同じ浅井久志さんの訳ですね。
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by silverspoonsjp | 2004-03-30 23:53 | センス・オブ・ワンダーの本