本と読書をめぐる冒険


by silverspoonsjp
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30

【「指輪物語」関連の本】『アイスランドへの旅』 

a0003079_23465786.jpgこの本は、ウィリアム・モリス(1834-1896)が1871年にアイスランドを旅したときの日記です。モリスは「ユートピアだより」の著者として、また、優れた装飾デザイナーとしてなど、多方面の活躍で知られる人ですが、私自身は長らく、理想の書物を追求したケルムスコット・プレスの創始者としてのモリスしか知りませんでした。

ところが先日、オックスフォード大学に関する雑誌記事を読んでいたときにモリスの名前が出ていて、そういえば彼はここの卒業生だったということを思い出し、ふと「指輪物語」との関連が気になりだしました。「指輪物語」の著者トールキンもオックスフォード大学の出身で、アイスランド文学に大変な興味を示していたと聞きます。

そこでモリスの『アイスランドへの旅』を読んでみたのですが、ヤマ勘はずばり的中し、トールキンファンなら思わず小さくガッツポーズの記述がそこここに登場します。

7月21日 「命を眠らせるものの刃のどちらの側も青みがかっていた」(「そしてその刃は炎で青かった…」)

8月14日 「毛布にくるまったとき」彼は「ヒータル谷の勇士ビヨルンのサガを語ろうかと申し出た……締めくくりは古い韻文だった。
ここにサガは終わる。
これを聞いたすべての人びとは、よき神に向かわれよ。


8月16日 老女を見つけて道をたずねた……
老女「お名前は」
マグ「名はエイリークルでマグヌースの息子だ」


それもそのはず、モリスはアイスランドサガに熱中し、「そこに行かねばならない、物語の背景を見なければならない」と長いこと思っていたのです。このアイスランド行は、北欧神話の舞台を尋ねる旅だったのでした。

トールキンの作品を理解するためには、そのバックグラウンドの一部である北欧神話を知ることが不可欠・・・とは言うものの、ただ神話集を読んでいるだけではさっぱり雰囲気がつかめません。この本を読むことはショートカットみたいなものなのでズルではありますが、北欧神話の内容が実体を持って感じられるように思います。

紀行文自体は、そういった興味でもないと正直、退屈かもしれません。ただ、巻末の訳者解説は時代背景がよくわかり、当時のイギリス社会に興味がある人などにも面白く読めると思います。ヴィクトリア時代の知識人のあいだではちょっとしたアイスランドブームがあったことなど「へえ~」と思いつつ読みました。

モリスには小説もあって、なかでも「世界のかなたの森」という中篇が私のお気に入りです。分類としてはファンタジーに入るんだそうですが、まるで見てきたように描いてあり、「東方見聞録」のなかのお話みたいだと思いました。機会があればこちらもどうぞ。

余談: この旅行記はモリスがバーン=ジョーンズ夫人に贈った日誌を元にしているのだそうです。そういえば、「指輪物語」の映画(「ロード・オブ・ザ・リング」)を見たときの最初の印象は、衣装といい顔立ちといい、ロセッティの絵に出てくるような人(リブ・タイラー@アルウェン)やバーン=ジョーンズの絵に出てくるような人(イライジャ@フロド)が世の中にはいるもんなんだなあ…ということでした。映画の衣装についてはラファエル前派を意識したという、製作陣のコメントがあったので、意図してのことなんでしょうね。モリスまで意識したのかどうかはわかりませんが…。

ウィリアム・モリス著 大塚光子訳
2001年 晶文社 
B6判 311P
2400円
ISBN:4-7949-1695-7
[PR]
by silverspoonsjp | 2004-12-01 23:44 | 「指輪物語」関連の本