本と読書をめぐる冒険


by silverspoonsjp
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<インテリア>で読むイギリス小説

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積ん読してるうちに早2年ほど経ってしまいました。ちらちらとは読んでいたんですけど…。

作品論どころか小説自体をあまり読まないため、この本を読んで、読んだつもりになった小説がいくつもあるというお恥ずかしい状態です。そんな私でも興味深く読み通すことができました。

本書は室内空間から、時代背景を考慮しつつイギリス小説の読み直しを試みた論考を集めたものです。

実は、映画や演劇では、セリフの代わりに背景が登場人物の性格を語ることは珍しくありません。たとえば、イギリス人のトールキンが書いた原作を元に作られた映画「ロード・オブ・ザ・リング」を見るとそれはよくわかります。映画の最初の室内のシーンは前作「ホビットの冒険」の主役ビルボと、彼の甥であるフロドが住んでいる屋敷の内部です。

竜から宝物を手に入れ、また魔法の指輪をも手にして帰還したビルボが住まうこの屋敷は、いかにもイギリス風で居心地が良さそうです。紙切れや本があちこちに散らばっている部屋のありさまも、いかにも長いこと独身で気ままに暮らし、読書や書き物が好きな人の住まいであるという感じをかもし出しています。

「ロード・オブ・ザ・リング 公式ガイドブック」は、映画を撮った際のさまざまなエピソードがつまった本ですが、この中で美術監督がこの家を評して「いつまでも変わらない保守的なものを感じた。いくらかチューダー風でもあった…ビルボ・バギンズのような人物がいかにも住んでいそうなところだ」というコメントが強く印象に残っています。それだけに、映画の最終シーン近く、ビルボが去り、フロドが独りで住んでいる同じ屋敷の中の変わりように気づかずにはいられません。彼も叔父同様、使命を果たして帰還したものの、きれいに片付いた部屋は寒々として、彼の心の中を物語るかのようです。

映画を観てから本を読んでみると、トールキン自身が室内の描写をし、またそれによって登場人物の心情を描写している箇所が少なくないのに気づきます。彼は「ホビットの冒険」のためにビルボの屋敷の内装の絵まで描いており、物語の上でその場面がいかに重要であるかがわかります。

イギリス人にとって室内とは、そこに住む人の「魂の博物館」であり、その人の「城」だといいます。本書の指摘を受けて読み直してみると、イギリス小説の中で室内の描写が(または室内が描写されないということが)、どれほど重い意味を持っているかということに改めて気づかされます。また、作品が書かれた時代背景に沿った考察になっているため、イギリスの近代史に興味がある人にとっても心惹かれるものがあるのではないでしょうか。

目次は以下の通りです。

インテリアの歴史的表象
1 インテリアという表象
2 カントリー・ハウスと室内空間
   ―ジェイン・オースティンの館に触れて
3 もの溢れるヴィクトリア朝と作家たち
4 ウィリアム・モリスとアーツ・アンド・クラフツ運動      
   ―デザイン思想と社会改革のヴィジョン
5 世紀末の開かずの間
   ―『ドリアン・グレイの肖像』の室内装飾をめぐって

作品に読むインテリア
6 〈インテリア小説〉としての『嵐が丘』
   ―バルテュスの挿絵を手掛かりに
7 鏡で読み解く『ヴィレット』
8 〈見せる〉ことと〈使う〉こと
   ―エリザベス・ギャスケルの『北と南』における〈家〉の条件
9 寝台に横たわる人びと
   ―イヴリン・ウォーとカントリーハウス

生の空間を求めて
10 部屋の文学・家の文学
   ―E.M.フォースターのインテリア
11 〈子ども部屋〉にひそむ驚異
   ―イギリス児童文学にみるインテリアの表象
12 移動する部屋
   ―イシグロ、ロレンス、チャトウィンに見る断念の形影
13 変容する女たちの部屋―ドラブル、カーター、
   ブルックナー、レッシング、マードック


久守和子/中川僚子編著
ミネルヴァ書房 
ISBN 4-623-03752-5
定価 3200円 
A5判 316ページ
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by silverspoonsjp | 2005-01-31 23:55 | 人文科学の本