本と読書をめぐる冒険


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旅の本二題 草枕/地上を渡る声

旅バトンを頂いて、すっかり旅づいて参りました。

折しも「國文學」の7月号が「旅と日記」の特集で、まことにタイムリーでした。
特集ではなく連載の方で小池昌代さんの詩集「地上を渡る声」が引用されていました。

「旅というものは、だから、たくさんしたからいいでしょう、というものではないのですよ。ただひとつの旅が、生涯をかけて終わらないこともある。

(中略)

旅から帰ったあと、同じ場所で、あなたはさりげなく日常を始めます。けれど、旅人は誰ひとりとして、同じところへは戻れない。あなたは常に、前と違うところへ、着地する。」


イスタンブールへの取材の旅を描きながら、旅にとっての日常、日常にとっての旅が語られて、なるほどと思いつつ読みました。

映画「ロード・オブ・ザ・リング」で、主人公たちが故郷に帰ってから、うわべは出発前と同じ生活をしているのに、心の中はまるで違ってしまっているというのがとても印象に残っているんですけど、程度の差はあれ、旅から帰るというのはそういうことかも知れません。自分では全然自覚できないけれども…。

さて、旅といえば私がまず思い出すのは夏目漱石の「草枕」(青空文庫で全文が読めます。こちら)。

「智に働けば角が立つ…」の冒頭部分があまりにも有名なので、お説教じみた話かと敬遠される方もいるかも知れませんが、芸術と旅について考えている部分が静かに流れていたかと思うと、物語部分がメロディーを奏で、やがてそれが退いて…という具合で、また、言葉の連想されてゆくリズムもとても音楽的です。

松岡正剛さんの「千夜千冊」によると、ピアニストのグレン・グールドも熱烈な「草枕」の愛読者だったそうで、ひょっとしたら彼も、この作品の音楽的なところに惹かれたのかなと思ったりしました。それはさておき、草枕の中で直接旅について触れたところ。

「われわれは草鞋旅行(わらじたび)をする間(あいだ)、朝から晩まで苦しい、苦しいと不平を鳴らしつづけているが、人に向って曾遊(そうゆう)を説く時分には、不平らしい様子は少しも見せぬ。

面白かった事、愉快であった事は無論、昔の不平をさえ得意に喋々(ちょうちょう)して、したり顔である。これはあえて自(みずか)ら欺(あざむ)くの、人を偽(いつ)わるのと云う了見(りょうけん)ではない。

旅行をする間は常人の心持ちで、曾遊を語るときはすでに詩人の態度にあるから、こんな矛盾が起る。」



これも、わかるわかる!って感じですね…
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by silverspoonsjp | 2006-06-16 00:48 | センス・オブ・ワンダーの本