オススメSF その3 壮大なる実験-「星を継ぐもの」
2006年 08月 04日
小説の面白さ、というとストーリーの面白さと同義のように考えがちですけれども、「星を継ぐもの」の面白さはもうちょい違うところにあります。
もちろんストーリーも面白いです。
イギリスの科学者ヴィクター・ハントは、突然アメリカへ呼ばれます。
理由は、月面で発見された遺体を分析するため。
何をそんな大げさな…と彼ならずとも思いますが、チャーリーと名付けられたこの遺体は、なんと5万年前のものだったのです。
なぜそんな大昔に人類が月にいたのか、そもそも「チャーリー」は人類なのか…。
この謎を解くため、古生物学、数学、言語学…等々のエキスパートが仮説を立て、議論を進めていくくだりが物語の中心になっていて、その過程がエキサイティングで面白いんです。
「サイエンスフィクション」たるゆえんが舞台や小道具だけではなく、「科学的な手続きによって議論を進める」という物語の進行そのものにあるのが斬新。
読み手も、自分もメンバーとして真相究明に参加しているような、臨場感あふれる読書体験ができることでしょう。
沈着冷静なハント、切れ者のコールドウェル、科学者魂あふれるダンチェッカーなどキャラクターも魅力的ですし、遺品が解読されていくにつれ、ただの分析対象でしかなかった「チャーリー」にも親しみが湧いてくるのがまた不思議です。
エピローグの余韻も、爽やかな読後感を与えてくれます。
ダンチェッカーの発言から取られたものと思われる、本のタイトルも印象に残ります。原題は“Inherit the stars”。うまい訳ですね。
ジェイムズ・P・ホーガン
東京創元社
ISBN 4-488-66301-X
長編
ハードSF度 ★★★★★(「竜の卵」を★5とカウント)
ファンタジー度 ☆☆☆☆☆
個人的好み ★★★★☆
〈お好きかも〉
ミステリーが好きな方
SFらしいSF作品を読んでみたい方
重く心に残るよりも、爽やかな読後感を求める方
その他のオススメはこちら。
by silverspoonsjp
| 2006-08-04 21:17
| センス・オブ・ワンダーの本