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本と読書をめぐる冒険


by silverspoonsjp
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ぬばたまの…

展覧会を見ようと上野に出かけたら、公園の中の野球場に「正岡子規記念球場」と看板が掲げられていました。

何で球場が子規なの、と一瞬思ったけど、そういえば「野球」って日本語は子規が命名したんですよね。(←これは違うという説もあったなあと気になって調べたら、この日本語を使い出したのは子規らしいんですけどペンネームとしてで、「ベースボール」に当てはめたのは他の人らしいです。すみません)ちょうど正岡子規に触れた面白い文章を読んだばかりだったのを思い出しました。佐藤勝明先生という方が書かれた短い論文で、子規の

「久方の アメリカ人のはじめにし ベースボールは 見れど飽かぬかも」

という短歌が挙げられています。

「久方の」っていうのは枕詞で、元は何か意味があったにせよ、歌で使われているときはそれ自体には意味がないとされています。例えば、

「あおによし 奈良の都…」
では「あおによし」が、
「あしひきの 山鳥の尾の…」
では「あしひきの」が枕詞で、それぞれ後ろにある「奈良」とか「山」を導き出すために置かれた言葉だとされます。

で、この子規の歌なんですが、「久方の」は「光」とか「天(あめ)」なんかを導く枕詞なのを、同じ発音とはいえ「アメリカ人」に使っているところがナイスです。しかも「久方」っていうと、遠い感じですもんね。「遙か彼方のアメリカ人が発明した」って如何にもカッコいい。

こんな感じに、枕詞を形式的じゃなくて、ちょっとシュールに使ってみるって例が論文中に挙げられています。私が好きなのはこれ。

「ぬばたまのクロネコヤマトひっそりと君のメールをポストに落とす」(入谷いずみ)

まるでぬめぬめと生きているような「ぬばたまのクロネコヤマト」がちょっとシュールで怖いですね。「ぬばたま」は黒や闇を導くそうですから、こんなのはどうでしょう。

「川の瀬の石踏み渡り ぬばたまの 黒の乗り手は常にあらぬかも」
(本歌:川の瀬の石踏み渡り ぬばたまの 黒馬来る夜は 常にあらぬかも って同じやん…)

「ブルイネン 瀬を早みかも ぬばたまの 黒の乗り手に逢はむ夕星(ゆうづつ)」
(本歌:天の川 瀬を早みかも ぬばたまの 夜は更けにつつ逢はぬ彦星)

こういうことやり出すと、いくらでも指輪短歌が出来ちゃいそう。
 
家にあれば 6度の食事 ホビットも 旅にしあればレンバスを食う

…いえ、何でもないです。  
by silverspoonsjp | 2006-09-09 01:14 | プチ日記