本と読書をめぐる冒険


by silverspoonsjp
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イギリスの階級とことばを知る…「不機嫌なメアリー・ポピンズ」

皆様、こんばんはー!

このブログの目的の一つに、昔読んだ懐かしい本を再読してみたいというのがあったんですが、そこに行くまで寄り道しまくってる今日この頃、この本を読みました。

「不機嫌なメアリー・ポピンズ」…

そうです、ディズニーのメアリー・ポピンズは良くできてると思うものの、断じて許せないのは、メアリー・ポピンズが愛想が良いことなんですよ!!(力説)

幼少のみぎり原作を読んで、どっぷりハマったため、イギリスの人ってプライド高くて気取ってるんだなーそれがステキ…(あ、いえ、子供相手にベタベタしてない大人が、っていう意味で)とか思っていたのでした。

この本を読んでみると、「不機嫌」の裏には、もう少し複雑な事情が隠されていることがわかります。それが何かは本のキモなのでここでは細かくは触れませんが、保母であるメアリー・ポピンズが属するべき階級と、彼女の雇い主であるバンクスさん一家との身分差などが含まれており、確かにイギリス以外の観客(同じ英語圏とはいえアメリカではなおさら)には、忠実に映像化してみたところで、この機微は伝わらないでしょうね。

本書は、イギリスの小説に見られる登場人物の行動パターンや言葉遣いから、イギリスの階級社会を考察したものです。「エマ」「高慢と偏見」「眺めのいい部屋」「ブリジット・ジョーンズの日記」など、映画化された作品については原作と映画を併せて紹介してあるので、原作を読んだことがなくても、映画を観たことがあればかなり楽しめます。

例えば、オースティンの「プライドと偏見」。原作でも映画版でも、ヒロインの家族の下品さが彼女の幸せの邪魔をします。日本人の私は、単に「格の高い自分にあんな下品な家族が出来るなんてイヤなんだろうなー」くらいに考えてたのですが、

「ジェントルマンの家族にふさわしくない言動…品の良さは彼らが手本となるべき下層階級への責任である」

という指摘には、なるほどなと思いました。つまり、ジェントルマン(とその家族)たるもの、下の階級の者のお手本となる振る舞いができなければならない訳です。

イギリスの階級差はまず言葉に表れるそうですが、現代でもそれは同じなようで、使う単語(「何ですって?をwhat というか Pardon?と言うか)、使うモノ(スーツケースに車輪がついているか、ないか)など細かいところでいちいち気にするのだとか。

ちなみに、「Pardon?」の方が上品に聞こえますが、これはフランス語由来の言葉なので、わざわざそんな言葉を使うと成り上がりに聞こえるということでセレブの使う言葉ではないそうです…。ううーん。

逆にイギリスの作品で、まったく階級を感じさせない話し方というのはSF的とさえとられてしまうようで、「時計仕掛けのオレンジ」もわざと主人公に階級を超越した、おかしなしゃべり方をさせているそうです。

この作品、キューブリック監督の映画でしか見たことがないんですが、原作の終わりの方の筋を聞くと「トレイン・スポッティング」みたいだそうですね。一時はワルをやっていても、憑き物が落ちたように、元の階級の価値観に戻ってしまう。そういう描写もイギリスのお話らしいのだそうです。

児童文学もこういった目でみると大変面白いです。
たとえば「ハリー・ポッター」。

特に努力してる訳でもない(いじめられはするけど)ハリーがスゴイ魔法使いっていう設定が気に入らず、私自身は熱心な読者ではなかったのですが、血筋が正しくて、品が良い、なるほど、これが「ジェントルマン」ってものなんですね。逆に言うと、ガツガツ努力しているハーマイオニーは如何にも中の下って感じです。

何度もしつこくてすみませんが、この観点からいうとピーター・ジャクソン監督の「ロード・オブ・ザ・リング」は肝心なところが惜しかったなあって思えてならないのです。

地主のフロドと庭師のサムが、アメリカ英語でしゃべっちゃうのは問題外として、身分が違う二人が友達みたいに見えちゃダメだってば!言葉遣いや階級の差からくる価値観の違いが面白いのであって、そこを飛ばしちゃうと、他はどれだけ凝ろうとも、原作が一番こだわった部分が抜けちゃった感じで勿体ない。

残念ながら本書には「指輪物語」の考察はないんですけど、このように応用(こじつけ?)も出来て楽しく、手軽に読める一冊です。

新井潤美 著
平凡社新書
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by silverspoonsjp | 2006-09-19 22:36 | 人文科学の本