本と読書をめぐる冒険


by silverspoonsjp
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オススメSF その5 人類を補完せよ-「鼠と竜のゲーム」

a0003079_23195181.jpgさて、ここで一つ手強い作品に参りましょう。とは言っても、理屈っぽいSFではないので、これがファーストSF、ということでも好きな人は好きになるだろう短編集であります。

全く偶然に、収録作の「アルファ・ラルファ大通り(Alpha Ralpha Boulevard)」というタイトルに惹かれて、本も手にとってみた、というだけなのですが、作品を読む前に、まえがきですでにノックアウトされてしまいました。

コードウェイナー・スミスというのはペンネームで、本人は戦時下においてはアメリカ陸軍情報部の大佐であり、戦後は日本・中国・フランス・ドイツで少年時代を過ごし、あの孫文に「林白楽」という中国名を授けられた、という、ある意味SF的な経歴の持ち主。

「運命が決められている人々」というモチーフはカート・ヴォガネット・ジュニアの『タイタンの妖女』に通じるところがありますが、予告された通りに物語が進む運命論的な語り口は、どことなく東洋っぽいものを感じさせます。

友情や優しさ、ロマンスやハッピーエンドといった要素がちりばめられていながら、読み込んでいくうちに、社会の仕組みの冷酷さというか、組織の論理みたいなものに気づかされたりもします。

そして何といっても一番の魅力は、一種独特のセンスを持った、そのことばの遣い方です。例えばタイトルでは、先にあげた「アルファ・ラルファ大通り」の他にも、
「スキャナーに生きがいはない(Scanners Live in Vain)」
「黄金の船が-おお!おお!おお!(Golden the Ship Was- Oh!Oh!Oh!)」
など印象的なものがありますし、
何の説明もなく文中に登場する「人類補完機構(The Instrumentality of Mankind:この訳は面白いですね。「エヴァンゲリオン」にも引用されてます)「クランチ」といった用語にも惹かれます。たとえば、「アルファ・ラルファ大通り」の一節-


「それできまった」とマクトはいった。「三人でいっしょに戻ってみましょう」
「戻るってどこへ?」とわたし。
「アバ・ディンゴへ」
(中略)
「そこへはどうやって行くんですか?」とヴィルジニー。
マクトは悲しげに眉をひそめた。「道は一つしかありません。アルファ・ラルファ大通りです」ヴィルジニーが立ち上がった。わたしもそれにならった。


ここへ至るも、アバ・ディンゴって何なんだ?アルファ・ラルファ大通りって何??とはてなマークが頭の中で点灯しっぱなし。最後まで、はっきりとは説明されない用語も多数あり、いろいろと解釈できて面白いです。

とは言っても、アシモフの「ファウンデーション」同様、スミスの「補完機構」も切れ切れながら、一つのまとまった世界を形作っているので、続けて読むとそれなりにわかりはしますが…。

コードウェイナー・スミス著
伊藤典夫、浅倉久志訳
早川文庫
ISBN 4150104719

短編
ハードSF度   ★★★★☆(「竜の卵」を★5とカウント)
ファンタジー度  ★★★☆☆ SF(サイエンス・フィクション)度 
個人的好み   ★★★★★

〈お好きかも〉
意味のわからない言葉でも響きがよければ好きな方
見方によっては暗い作品でもOKな方
イメージするのも困難なほど途方もない話が好きな方

SFのその他のオススメ作品は、下のSFタグからどうぞ。
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Commented by elfarran_in at 2006-09-23 10:23
ふふふふ忘れちゃいませんSFバトン・・・^^;
でもこんなに幅広くSFご存知とは、恐れ入谷の鬼子母神。
浅く広く浅くがライフスタイルなので銀の匙さんの
様に深く突き詰めて、探索の旅を続けれる方はそんけ~
でございます。あんなに忙しい仕事の合間に
どれだけ知識吸収するんですかっ!食べすぎちゃいますよ(*_*)
あははは早く自分も書け!です(自爆)
Commented by silverspoonsjp at 2006-09-24 12:45
☆Elfarranさんこんにちは。
私信ですが、次の講座の日に仕事が入ってしまいました。うわわわわーん!夕方には終わりそうなんですけど。

さて、すみません、バトンというよりお荷物をお渡ししてしまいまして。どうぞ、ごゆっくり…。大体、SFファンと自ら言うような人は、早川と創元のSF文庫は全て読んでいる、というのが「最低限」のラインですので、私などはお話になりません。かなり偏ったものをオススメしてるなーと自覚しておりますので、エルさん始め皆さんのオススメを拝見するのを楽しみにしています!
Commented by wata at 2006-09-25 14:31 x
「最低限」ラインが高すぎます・・・苦笑。どちらの文庫も一部しか読んでませんけど、コードウェイナー・スミスは好きな作家です。
あの、わけのわかんなさが好きです。見方によっては暗いですが、見方によっては希望もありませんか?
そして訳者が英語の言語のニュアンスとは少し違うと書いていたと思いますが、「人類補完機構」という訳語が好きです。
Commented by 銀の匙 at 2006-09-28 22:25 x
☆wataさん
wataさんはこの方面、お詳しいですよねー。昔はSFの点数も限られていたので、全点読むのもたぶん(そんなに)難しくなかったと思うんですが、今となっては限りなく不可能に近いですね。第一、品切れになったものが多いし。

実は東京都の文京区立図書館ってハヤカワ全点そろえてるらしいんですよ。誰かファンがいたんでしょうかね…。

>そして訳者が英語の言語のニュアンスとは少し違うと書いていたと思いますが

「鼠と竜のゲーム」のあとがきにありますね。「人類補完機構」の「補完」の訳は「仲介」あたりが妥当らしいんですけど、wataさんのおっしゃるとおり、今の訳の方がカッコいいですね。

コードウェイナー・スミスの作品、私もとても好きです。次回は「ノーストリリア」をご紹介しようと思っています。
by silverspoonsjp | 2006-09-21 23:22 | センス・オブ・ワンダーの本 | Trackback | Comments(4)