オススメSF その7 少年の恋と冒険-「ノーストリリア」
2006年 10月 01日
お話は簡単だ。むかし、ひとりの少年が地球という惑星を買い取った。痛い教訓だった。あんなことは一度あっただけ。二度と起こらないように、われわれは手を打った。少年は地球へやってきて、なみはずれた冒険を重ねたすえに、自分のほしいものを手に入れ、ぶじに帰ることができた。お話はそれだけだ。
という、過不足のない、先を読まずにはいられない書き出しで始まる長編小説。「ノーストリリア」(オールド・ノース・オーストラリア)とは惑星の名前で、銀河随一の金持ち惑星でありながら、砂漠と羊しかない、素朴な文化を保っている場所です。
多くの人口を養うことのできないこの場所では、産児制限などという汚らわしいことはせず、子供にはとりあえずは成長の機会が与えられて、幼児期が終わるころに選別され、不適格者は〈死の庭〉に送られることになっています(おや、最近どこかで似た話を聞いたような)。
われらが主人公、ロッド・マクバンは、テレパシー能力に欠けると判断されており、このままでは〈死の庭〉行きは確実だと見なされていました。しかし、彼には……。
見方によっては非常に残酷な運命、残酷な境遇を淡々と受け入れる登場人物たちに、幼少期を世界各地ですごした作者の経歴や、彼の生きた時代が色濃く投影されているのではと思うのですが、定められた枠の中で最良と思われる生き方を、自らの手でつかもうとする彼らの姿には深い共感を覚えます。
どんなに「自由」であると思っていても、人の生き方は周りのあらゆる条件によって規定されている、と作者は考えているようです。そんな状況の中で、自分がいちばんしたいこと、欲しいものが何かを、一体どうやって、どこに探せば良いのだろうか。
少年少女を主人公にしたすぐれた小説が投げかけてきたのと同じ問いを、この作品も投げかけてきます。その答えは限りなく優しくて切ないもの。理不尽な規則、全体のためには個人が犠牲になる冷酷な社会制度に憤りを覚えながらも、読んで良かったと思えるのは、あくまでも人間を肯定的にとらえる、作者の理想主義的な姿勢のゆえかもしれません。
前に取り上げた「鼠と竜のゲーム」と同じ世界を共有しているので、併せて読むのも面白いです。
コードウェイナー・スミス著
浅倉久志訳
早川書房
ISBN4150107106
長編
ハードSF度 ★☆☆☆☆(「竜の卵」を★5とカウント)
ファンタジー度 ★★★☆☆ SF(サイエンス・フィクション)度
個人的好み ★★★★☆
〈お好きかも〉
少年が主人公なら何の文句も無い方
「ゲド戦記」(原作ね)のファンでもイケるかも知れない
レイ・ブラッドベリのファンでもイケるかも知れない
SFのその他のオススメ作品は、下のSFタグからどうぞ。
という、過不足のない、先を読まずにはいられない書き出しで始まる長編小説。「ノーストリリア」(オールド・ノース・オーストラリア)とは惑星の名前で、銀河随一の金持ち惑星でありながら、砂漠と羊しかない、素朴な文化を保っている場所です。
多くの人口を養うことのできないこの場所では、産児制限などという汚らわしいことはせず、子供にはとりあえずは成長の機会が与えられて、幼児期が終わるころに選別され、不適格者は〈死の庭〉に送られることになっています(おや、最近どこかで似た話を聞いたような)。
われらが主人公、ロッド・マクバンは、テレパシー能力に欠けると判断されており、このままでは〈死の庭〉行きは確実だと見なされていました。しかし、彼には……。
見方によっては非常に残酷な運命、残酷な境遇を淡々と受け入れる登場人物たちに、幼少期を世界各地ですごした作者の経歴や、彼の生きた時代が色濃く投影されているのではと思うのですが、定められた枠の中で最良と思われる生き方を、自らの手でつかもうとする彼らの姿には深い共感を覚えます。
どんなに「自由」であると思っていても、人の生き方は周りのあらゆる条件によって規定されている、と作者は考えているようです。そんな状況の中で、自分がいちばんしたいこと、欲しいものが何かを、一体どうやって、どこに探せば良いのだろうか。
少年少女を主人公にしたすぐれた小説が投げかけてきたのと同じ問いを、この作品も投げかけてきます。その答えは限りなく優しくて切ないもの。理不尽な規則、全体のためには個人が犠牲になる冷酷な社会制度に憤りを覚えながらも、読んで良かったと思えるのは、あくまでも人間を肯定的にとらえる、作者の理想主義的な姿勢のゆえかもしれません。
前に取り上げた「鼠と竜のゲーム」と同じ世界を共有しているので、併せて読むのも面白いです。
コードウェイナー・スミス著
浅倉久志訳
早川書房
ISBN4150107106
長編
ハードSF度 ★☆☆☆☆(「竜の卵」を★5とカウント)
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by silverspoonsjp
| 2006-10-01 11:16
| センス・オブ・ワンダーの本