本と読書をめぐる冒険


by silverspoonsjp
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スカヤグリーグ 愛の再生/ウィリアム・ホアウッド

上下巻で800ページを超える長編ですが、なーに、「指輪物語」に比べたら短編もいいところです(←間違った認識)。

物語は、
1.「スカヤグリーグ」という不思議な名前のゲームに魅せられ、その成り立ちと作者を知りたいと調査を始める「私」のパート

2.障害者の間に密かに伝わる「スカヤグリーグ」の伝説に魅せられ、それをゲーム化した脳性麻痺の少女、「エスター」のパート

3.奇跡の物語「スカヤグリーグ」の主人公「アーサー」のパート

からなっています。始め3、2、1の順番で語られていたので何がなんだかわからなかったのですが、数十ページ進むと、エスターの物語(2)が中心になって、どんどん話が展開していきます。

エスターは事故死した母親から生まれる際に重い脳性麻痺を患います。彼女に知性があるかどうかも疑われていたのですが、周囲の人々の助けに恵まれ、優れた数学の才能を持つことがわかってきます。装置の助けを借りて、自分の意思を伝えることも出来るようになりました。

まず、この段階に辿り着くまでが涙なくしては読めません。妻を亡くしたエスターの父が、娘への愛情に目ざめるところ、そして娘を亡くしたエスターの祖父母が、エスターを認めるまでの長い苦悩…。

エスター自身も、自分の感情をぶつけるだけではなく、周りを思いやるまでに成長するまで大変な道のりでした。そして彼女は、「スカヤグリーグ」の物語をゲームの形で一つの世界へと作り上げるのに没頭し始めます。

ここでいうゲームとは、コンピュータを使ったロール・プレイングゲームのことですが、このゲームのテーマは剣と魔法のファンタジーではなく、「スカヤグリーグ」の伝説とエスターの人生が語られ、プレイヤーはゲームを進めながら、人生の意味を探っていくというものです。

「スカヤグリーグ」とは、アーサーという障害者が、ほとんど牢獄のような施設に入れられ、無理解と虐待に苦しみながらも、「スカヤグリーグ」の存在に助けられて、いつも希望を持ち続けるという、障害者の間に伝わる伝説でした。エスターはこの話を実在する人物の伝記だと感じ、アーサーを捜し、スカヤグリーグとは何なのかを知ろうとします。

この手の話には珍しく、ちゃんとこの探求譚には答えが用意されています。その点も、この話を読んでカタルシスが得られる一つの大きな要素だと思います。

飽きさせないためか、途中に何カ所か通俗小説みたいな描写があって前後と不釣り合いな感じがするのは残念ですが、一気に読ませる小説です。ただし、翻訳は直訳が多く、日本語としてかなり気になるところがあります。

たとえば、部屋の描写で「素朴な部屋だった」というのがあるんですが、「質素な部屋」とか「飾り気のない部屋」とはいうけど、「素朴な部屋」って何なんだろう??と思ったり…。

と、ときどきじれったくなりつつも、この話をわが事のように読んでしまったのは、意思の疎通ができないもどかしさが良く描けていたためです。外国にいて、言葉ができないときに感じるあの辛さをありありと思い出しました…もちろん、エスターの苦悩とは比べものになりませんけど。こちらは大人なのに、言葉が片言なばかりに、見下されたり、幼児のような扱いを受けるのは本当に辛いものです。

だから、外国人が日本で片言の日本語をしゃべっていても、ゆっくりわかりやすい日本語で、でも失礼な態度にならないよう返事をしようと心がけています。あ、それから、そういうとき英語で返事されたりすると、日本語学習者としては傷つくんですよねー。気をつけましょうね。

「スカヤグリーグ」は1994年に映画化もされてるようです。

原題は「Skallagrigg」。これが何を意味するかが、物語の重要な鍵になってます。

角川書店
ISBN4047911895
現在は品切れのようです。
私は図書館で借りて読みました。

さて、「スカヤグリーグ」のゲームには、エスターの人生が織り込まれており、たとえば、こんな選択肢が用意されています。(本文通りだと長いので要約します)

あなたの子供が障害児であることがわかり、
あなたにはその子を生かすことも殺すこともできるとします。
生かすにはLを 殺すにはDをタイプしなさい。

…重い問いですが、このゲームを先に進めるためには何かタイプしなければなりません…。



答えは

生かす?

殺す?

いいえ、エスターが与えた答えは「わからない」でした。
どちらかを選択しても、ゲームは進まず、キーボードから「わからない」とタイプしなければならないのです…。
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by silverspoonsjp | 2006-10-28 23:54 | センス・オブ・ワンダーの本 | Trackback | Comments(0)