本と読書をめぐる冒険


by silverspoonsjp
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おすすめSF その9 来たるべきでない未来-「クローム襲撃」

サイバーパンクといえば、やたら訳語にルビがついている話…と思っていたので、数人の訳者が分担した、ルビ控えめな(!)この短編集を読むと、まるで別人の作品集のようです(笑)。

私の個人的な好みからいうと、浅倉久志さんの訳文が一番読みやすいせいか、浅倉さんが訳した「辺境」「ニュー・ローズ・ホテル」「冬のマーケット」が好きなんですが、特に「ニュー・ローズ・ホテル」はまるっきりハードボイルド文体で訳されているせいか、同じ作者の作品とは思えません。とはいえ、この本を最後まで読んでみると、巻頭の黒丸尚さん訳「記憶屋ジョニイ」のワケわからんぞサイバーパンクな訳文が懐かしくなったりします。これがきっと中毒症状というものなのでしょう(爆。

ということで、原著“Burning Chrome”は遠くなりにけり、もう20年以上前の作品ではあっても、収録作品「ガーンズバック連続体」に描かれた世界よろしく、古びることもなく、色あせることもなく、再読に耐える小説だと思います。

電脳世界に自らを没入させる「サイバーパンク」な設定はなくとも、ギブスンの作品らしい、孤独な主人公たちが点在する寂しげな風景は、秋に読むにふさわしいのではないかと思います。

たとえば、「辺境 Hinterlands」。

〈ハイウエー〉と呼ばれる、謎の空間へ入った者たちは、第一号のオルガを初め、みな精神に異常を来たして帰還します。彼らを世話する〈代理〉である、主人公トビーの感慨-

オルガは、どこをどうしてか、この成り行きを見通していたにちがいない。そこまで見ぬいていたにちがいない。オルガはあそこへの道を、自分がいた場所への道を、われわれに知らせまいとした。もしわれわれがそれを見つけたら、行かずにはいられなくなるのを知っていたんだ。いまでさえ、あれだけのことを知りながらも、まだおれは行きたくてたまらない。けっして行けることはないのに。

たとえば、「冬のマーケット The Winter Market」。

自分が何をしたいのか、つねに知っている女、リーゼ。彼女の思考から生まれたゲーム「眠りの王」は三百万コピーを売る大ヒットとなります。編集に携わったケイシーの思い-。

これまで何万人の、いや、ひょっとしたら何百万人の驚異的なアーティストが、ここ何世紀のあいだに、沈黙の中で死んでいったのだろう、と思わず考えたくなる。彼らはどうころんでも詩人や、画家や、サックス奏者にはなれないが、自分の中にこの才能、この精神的な波形をかかえていて、あとはそれをとりだしてくれる回路さえあればよかったのだ…と。

ご覧の通り、この人の書く文章には、薄暮から夜にかけて、地下のライブハウスに沈んでいく歌声のような、独特の雰囲気があります。ロックでいうとヴェルヴェット・アンダーグラウンドの曲を思い出すなあと思ったら、ルー・リードが好きだと解説にあったので、なるほどねと思いました。

ウィリアム・ギブスン著
浅倉久志 他 訳
早川文庫

短編
ハードSF度   ☆☆☆☆☆(「竜の卵」を★5とカウント)
ファンタジー度  ☆☆☆☆☆  
個人的好み   ★★★★★

〈お好きかも〉
三度のメシよりサイバーパンクな方
やっぱりルビが好きな方
ギブスンのファン

その他のSFのオススメは↓タグからどうぞ。
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Commented by crann at 2006-11-05 10:28
黒丸さんの訳してくれたモノを読むと、わかる話もわからなくなりますよね!よかった、私だけじゃなくて(爆)
『黒龍とお茶を』?あれも黒丸さんじゃなかったですか?
きっと違う人が訳したら、絶版にしなかったんじゃないの?と思えるのですが(爆)
でも某○田女史のように憎めないのはなぜでしょう(苦笑)
『記憶屋ジョニィ』なんて、映画を見て「こういう話だったんだー!」と驚愕しました。映画のシナリオがどなたなのか知りませんが、「本当の」『記憶屋ジョニィ』に会うには、原書で読まなくちゃいけないのでしょうか・・・
Commented by silverspoonsjp at 2006-11-06 01:07
☆crannさん
>わかる話もわからなくなりますよね!

そうなんですよ!それに、黒丸訳だとどの作品もギブスンが書いたのかと(核爆

しかも、もう一個疑惑があります。

>『記憶屋ジョニィ』なんて、映画を見て「こういう話だったんだー!」と驚愕しました。

「JM」の「たいしたことなかった」という巷の評価を聞いてると(単にキアヌ・リーブスが得意技のセリフ棒読みだったせいかもしれないけど)、黒丸訳だったから深淵な話に錯覚してるのではないかという恐怖から抜け出せなくなるんです…。
Commented by crann at 2006-11-09 14:10
げ!!
>黒丸訳だったから深淵な話に錯覚してるのではないかという恐怖
そ、そうかも知れない・・・
今まで気づかなかったけど、それはありえます。
ギブスン浅倉訳とくらべてみようかしら、やめようかしら・・・同じ物語じゃないなら比べなくてもいいかしら(爆)
Commented by 銀の匙 at 2006-11-18 18:58 x
☆crannさん
お返事めちゃくちゃ遅れてすみません。ギブスン訳を比較してみると、訳者が違えば同じ作者とは思えないというY本教授の法則(←わからない方は、「ホビット」「翻訳」「ボクチン」等で検索してみてくださいね;)が見事に当てはまってるなーと愚考するわけでございます。あ、もっとも、山M先生のときとは違って、どっちが上でどっちが下ってことは、ないみたいですけど。如何でしょ。
by silverspoonsjp | 2006-11-03 23:51 | センス・オブ・ワンダーの本 | Trackback | Comments(4)