本と読書をめぐる冒険


by silverspoonsjp
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オススメSF その11 小説の王道まっしぐら- 「あなたの人生の物語」

さて、ここでいきなり王道小説の登場です。

王道小説とは何か?
それは「人間」を描いた小説であります。人間が良く描けている小説、それが近代文学では良い小説だということになっているのです。テッド・チャンの小説は人間というものについて、短い物語のうちにとことん掘り下げた小説で、王道と呼ぶにふさわしいものです。

Stories of Your Life、とはうまいタイトルです。
日本語では安手の占い本みたいでさほどインパクトがないかもしれませんが、英語圏の人にはかなり訴求力のあるタイトルではないでしょうか。キャッチコピーに「You」を持ってくるのは宣伝の常套手段ですから。読み手を指して「あなた」と言っているのだろう、と、手にとってもらえることでしょう。

ここでもう一つ唸らせるのが、表題作。タイトルは「Story of your life」と単数になってます。ここではもう「あなた」は読み手のことじゃないんですね。それでおっ?と思わせる。
物語の語り手は、ずっと「あなた」に呼びかけている。
しかし、それは本を読んでる「あなた」のことではなかったんです。
では誰なのか?なぜ呼びかけるのか…。
実に憎い書き手です。

「地獄とは神の不在なり」という短編も面白いです。中味はタイトルそのまんま。主人公が、「地獄、それは神がいない場所である」と悟る、というそれだけの話。しかし非常に鮮烈な印象を残します。

というわけで、非常に良く練られた、いずれも完成度の高い短編が8編も入ったお買い得な本。-なんですが、小説の王道、そしてSFの王道でもありながら、好みはたぶん分かれることでしょう。

SFの王道とは何か?
それは、科学的なアイデアを核にした小説のことであります。
そのあり方には二種類考えられます。

1.科学的アイデアを説明するために小説の体裁を取っている。
 アイデアが主でストーリーが従。ここには、小説を書くために科学的設定を作ったが、やたら設定の説明が多くなってしまい、ミイラ取りがミイラ状態のものを含む(笑。

2.小説を書くためにアイデアが利用される。
 ストーリーが主でアイデアが従。あくまでも科学はストーリーを動かすために使われている。

1,2を両端としてグラデーションがかかってるとすると、テッド・チャンのこの小説は数学だの言語学だのが表に出ていて、一見1寄りに見えます。が、良く読むと、アイデアは従で、小説としての成分が高いのがわかり、恐らく典型的な2の範疇に入るものと思われます。

自分が暮らしている世界を、いきなり思いもよらぬ角度から見たらどう見えるのか。テッド・チャンの作品を読んでいると、その答えがいくつも見つかります。ただ、彼の場合、あくまでも人間を描くのが目的なのが、ちょいと不満なんですよ。SFは別に人間なんか描かなくてもいいんじゃないかなと、私は思っているので…。

いえ、ライオンとキリンの話だけど実は人間界の風刺になっている話、などではなくて、たとえば、こんな法律が適用されると世の中こうなる、とかいう思考実験は他のジャンルじゃやりにくいけど、SFならOK。そういう、ルール無用なところがテッド・チャンの作品にはないので…。しかし、旧来「小説」ジャンルの作品としてならば、一級品だと思います。

テッド・チャン著
浅倉久志 訳

ハヤカワ文庫
ISBN:4150114587

短編
ハードSF度   ★★★☆☆(「竜の卵」を★5とカウント)
ファンタジー度  ★★★☆☆  
個人的好み   ★★★☆☆

〈お好きかも〉
人間が良く描けてる小説が好きな方
短編が好きな方
プロットの優れた小説が好きな方

その他のSFのオススメは↓タグからどうぞ。
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Tracked from 本|本達 at 2006-12-04 22:48
タイトル : 占い 本
今回は 占い 本 関連ブログを紹介しましょう。それぞれのブログにもぜひ訪れてくださいね!... more
Commented by elfarran_in at 2006-12-03 15:07
あぁすいませんあまりにも真剣に論じておられたので↓
この辺りで笑いをカマス!それも世界平和のためには
重要ですよね!・・・・ってイチビリ担当ですか?アタシ?(笑)
マジメにネットやってる会った事も無い人から嫌われても
平気だけど、既知の方から二口オンナ・・・もとい、
二つの顔を持つ女と思われるのは・・・・痛くも痒くもナイか・・・(笑)
人間なんてそんな多面性の持ち主、だからこそ様々な視点で
読んだり書いたり出来るのですよ、ワトスン君。
(あー苦しい^^;)
Commented by silverspoonsjp at 2006-12-05 00:08 x
☆Elfarranさん
私こと、かつては千里在住の友から厳しい指導を受けておりましたのです。それは、
「ツッコまれたらボケる」
「ボケたらツッコむ」
関東の人間はしばしばこのおもてなしの心をないがしろにしてしまうのでございます。師(←いつの間に師に?;)の教えを忘れた私が悪うございました。なんかこう、ずっと暗いのは自分の芸風に合いません。そろそろ軽いノリに転換したかったんですが、黒門前のサムみたいにずるずると…。自分で自分のブログを炎上させる女と呼んでください。バルログでもいいです…。
Commented by kounit at 2006-12-22 08:43 x
「地獄、それは神がいない場所である」「自分が暮らしている世界を、いきなり思いもよらぬ角度から見たらどう見えるのか」どちらもドキッとする言葉ですね。
Commented by 銀の匙 at 2006-12-24 23:44 x
☆kounit
こんばんは。ドキドキにもいろいろ種類がありますけど(ホラーとか…)
SFの「ドキッと」は、ぱっと自分の視野を広げてくれる感じが良いですよね。テッド・チャンの作品は地に足がついてるのにいきなり視界が広がる感じが面白いです。
by silverspoonsjp | 2006-12-01 23:34 | センス・オブ・ワンダーの本 | Trackback(1) | Comments(4)