オススメSF その13 -「かめくん」
2007年 02月 08日
可愛らしいタイトルにダマされちゃダメダメ。どうせカワイイSFなんてないんだから。
と用心しいしい読んでみると、主人公の「かめ」がカワイイのでフェイントかけられた気分。
かめだけに(?)老成した性格が何ともいえません。
お話はのんびりとした雰囲気です。かめくんは倉庫で働いてたり、リストラされたり、アパートに住んだり、図書館に通ったり、ごく庶民的な生活を送っています(日本橋でんでんタウンが出てくるので、舞台はどうも大阪らしい)。
しかし、この話は、かめさんもウサギさんも良い子の皆さんとお話が出来ますよ、というおとぎ話の類ではありません。かめくんにヒトの言葉がわかるのは、そのように作られてるからなんです。何のために…?
他にも、かめくんには不思議な特技があります。それは何かにつながっているようなので、その部分がほのぼのしたお話にちらちらと影を落とし始めます。13ページくらい読むともう、一体この話の背後に何があるのか知りたくて、読むのがやめられなくなります。
と、唐突に、その種明かしがあったりして、なーんだ、そういうことだったのかぁ、と思うと、実はその後ろにまたさらなる背景が被さってきていて…という、まるで親カメの背中に子ガメが乗って…という世界が展開していきます。
穏やかで小さな日常に陰を落とす、大きな世界の存在。
大好きな「ヨコハマ買い出し紀行」に少し似たテイストを感じます。
それでも、かめくんは達観しています。自分はそのように作られている。世界とはそのように出来ている…。仮想の世界が現実に影響を与え、現実の世界はまた仮想の世界を変えてゆく。歴史を、世界を、自分が生きているということを、どう捉えるか。かめくんの優しい目線の先に、新たな地平が見えています。
北野勇作著
徳間書店
ISBN:4-19-905030
長編
ハードSF度 ★★★★★(「竜の卵」を★5とカウント)
ファンタジー度 ★★★★☆
個人的好み ★★★★★(ハードSF系に点が甘く、ファンタジーにキビシイ私ですが、この 作品は塩味の後に甘味、甘味の後に塩味という、やめられないサイクルで出来ていて、つい手が伸びます)。
〈お好きかも〉
カメが好きな方(マストアイテムです)
ネコが好き(ネコも登場します)
ガメラが好き(ガメラも登場します)
「男おいどん」シリーズのファン(アパートも登場します)
図書館関係者(かめくんは図書館が大好きです)
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