本と読書をめぐる冒険


by silverspoonsjp
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インド夜想曲/アントニオ・タブッキ


これは、不眠の本であるだけでなく、旅の本である。
不眠はこの本を書いた人間に属し、旅行は旅をした人間に属している。


こんな魅力的な序からはじまる中編小説。黄昏の雰囲気につつまれた静かな物語です。失踪した友人・シャヴィエルを探しにボンベイにやってきた男。小さな手がかりを追って、夢ともうつつともつかぬインドの夜の旅が始まります。

駅の時計が十二時を告げた。僕は眠気が襲ってくるのを感じていた。線路のうしろの公園からカラスの啼き声が聞こえてきた。「ヴァラナシというのはベナレスのことですね」と僕は言った。「聖都でしょう。あなたも巡礼に行かれるのですか」
 僕の連れはたばこを消して、軽く咳をした。「私は死にに行くのです」と彼が言った。「あと何日も生きられないのです」そう言って、彼は頭の下の枕の位置をなおした。「もう寝ましょう。あまり眠る時間は残っていませんよ。私の汽車は五時発です」
 「僕のはすこしあとです」僕は言った。
 「ああ、心配ありません。ボーイが時間に起こしてくれますよ。こうしてお会いした姿では、もうお目にかかることはないでしょう。このスーツケースではね。よいご旅行を」
 「あなたもよいご旅行を」僕はこたえた。



蒸し暑い夏の夕暮れにこの小説を手に取ると、まだ見ぬインドの喧騒に包み込まれるような気持ちがします。しかし、そのインドはどこにあるのでしょう。実際に行ってみてさえ、それは本物ではなく、私の心が映し出す影に過ぎないのかもしれない。

あるいは、旅とは元来そういうものなのかも知れません。

本作品は映画化もされており、物静かな主演のジャン=ユーグ・アングラード はこの作品の雰囲気にぴったりでした。ラストを除いては…(フランス映画ならこんなラストがお好みかもしれないけど)。
訳は須賀敦子。抑制がきいた、深みのある文章です。


須賀敦子訳
ISBN  4560070997
新書版  163p  白水Uブックス 1993年
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Commented by ゆきみ at 2004-07-24 20:29 x
こんばんは。
わたしは、本を読むのが遅いので、積読です。
「インド夜想曲」と「アルハンブラ物語」は、ちょっと読んではため息をついて、旅仕度をしてしまうので、読み終わらない二冊です…
…読まなきゃ
Commented by silverspoonsjp at 2004-07-24 23:55
アルハンブラ物語ってアーヴィングのですか?www.iwanami.co.jp/.BOOKS/32/1/323022+.html

面白そうですね。読んでみようかな。
ゆきみさんはゆっくり、確実に本を読まれると伺ってますよ。読んだら右から左へ抜けちゃう私には羨ましいです。
Commented by くらくらleiran at 2004-07-25 11:46 x
『アルハンブラ物語』は中学1年のときに初読して以来のとっておき本です。
この本を読んでから青池保子のスペイン関連漫画群を読み、スペイン史を読み、山本すみか(エースをねらえ!の作者)の『七つのエルドラド』を読み、海賊にはまり、ランサムに耽溺し…芋づる式にあれよあれよと本が増えました(苦笑)

須賀敦子さんを知ったのは、須賀さんがなくなった後。『インド夜想曲』をはじめ須賀さんの著書も翻訳も素敵ですよね。
もっと長生きしていただきたかったなあ、とおもいます。

私も読む量は多いけど右から左。
記憶力が衰退の一途をたどるヌメノールなので、なんとかしなくては。
Commented by silverspoonsjp at 2004-07-25 23:26
leiraniさんがヌメノールなら、私は塚人かなぁ(すでに滅亡)。
なんと「七つのエルドラド」の方がランサムより前とは、ユニークな読書年表ですね♪
Commented by crann at 2004-07-28 23:26
しまった、情熱の赴くままに連ねてしまいました(苦笑)
もちろん、ランサムが先です。指輪とエルドラドがその後になります。本格的に海賊を探したのは高校になってからですね。
Commented by silverspoonsjp at 2004-07-29 00:44
海賊といえばキャプテンハーロックかしら…。小さなバイキング・ビッケ??アルハンブラから遠くに来てしまいました…。
by silverspoonsjp | 2004-07-20 22:22 | センス・オブ・ワンダーの本 | Trackback | Comments(6)