本と読書をめぐる冒険


by silverspoonsjp
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國文學  特集:翻訳を越えて

なんだか最近、国文学関係で翻訳の特集を組むことが多くなったように思うんですが、気のせいでしょうか。

さて、2008年5月の特集は「翻訳を越えて」
目次はこんな感じ。


初めにことばがあった  柳父章
明治に生まれた翻訳ことば  飛田良文
シェイクスピア翻訳史の端緒と現在――漱石の逍遥批判をめぐって  河合祥一郎
雨森芳洲と翻訳  大西比佐代

「バラク・オバマ」を翻訳する  荒このみ
同時翻訳の難しさ  松本道弘
自動翻訳機はどこまで進むのか  富士秀
抒情の罠――金素雲と金時鐘  藤石貴代
ペソアを翻訳する――『不安の書』と相まみえて  高橋都彦
誤訳の名作――アメリカ文学作品邦題再検証   舌津智之

夢想の詩学――不断の創造的な裏切り  樋口覺
翻訳という名のアート――言葉の置き換えから創作へ  江藤裕之
短歌の翻訳  宿谷睦夫

カフカ以前とカフカ  池内紀


「誤訳の名作」なんてなかなか面白かったですが、本当の誤訳の例というのはたぶん上がってなかったんじゃないでしょうか?たぶんわかっててこの邦題にしたんだろうなという感じでした。

さて、私が一番感動しつつ読んだのは、大西比佐代さんの「雨森芳洲と翻訳」でした。

芳洲は江戸時代の儒学者であり、鎖国下ながら、中国語を20代半ば、朝鮮語を30代半ばから始めて通暁したという、稀有の人物であります。日韓関係が話題になったときに交流の先駆者として良く名前が出るので、知っている方も多いのではないでしょうか。

彼は儒学者なので、
「学問の目的は立派な人になることだ」
とか、言うことが説教臭いんですが、外交や貿易の現場に身を置き、外国人と接した体験に基づく言葉の数々は感動的です。

「国のたふときと、いやしきとは、君子小人の多きとすくなきと、風俗のよしあしとにこそよるべき」
(ある国の値打ちは、人々の行いに品格があるかどうかによって決まる)

ここで芳洲の言う「たふとき」人、つまり品格のある人とはどういう人か。
「定まりたる見識ありて、世のはやりにしたがはざるこそたふとけれ」

教養がきちんと身に付いていて、自分なりの考え方を持ち、自分で判断ができ、世の流行り廃りに流されない人、ということなんでしょうね。いちおう情報化社会とか、言論の自由があるとされている今でさえ難しいことを、江戸時代に実践していたのだから凄い人です。

ほんの8ページほどの短い論文ですが、言葉を勉強するとき何が大切なのかがぎっしり詰まっています。挙げられている参考文献なんかも読んでみようかなと思っています。

國文學 第53巻7号2008年5月号
1600円 學燈社 

http://www.gakutousya.co.jp/cgi-bin/menu.cgi?ISBN=0173
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by silverspoonsjp | 2008-05-01 23:39 | 人文科学の本