本と読書をめぐる冒険


by silverspoonsjp
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「翻訳家 土屋政雄が創る わかりやすい文章」講演会

本日は千代田区立図書館の標題イベントに行って参りました。
日本科学未来館で開催中の「エイリアン展」とタイアップした催しで、会場には関係者もちらほら。定員25名の面々は、仕事で翻訳やってるか、修行中でしょ?という感じの人ばかり(ぱっ!と本格的な電子辞書を取り出すあたり、普通の会社員とは思えない)。

講師の土屋さんは、カズオイシグロの翻訳等でご存じの方が多いと思いますが、今回は展示説明の翻訳を担当された縁での講義、ということらしいです(ということは、「エイリアン展」、見るべきものはフィギュアではなく、説明プレートらしい…)。

で、講義も、実際の展示に使われている原文と訳文を例として示しながらの、とても具体的なものでした。

高校時代にアメリカにいらしたとかで、プレゼンテーションの仕方からしてあちらで教育を受けた人らしい、良く整理されたもので、大変勉強になりました。

演題には「わかりやすい文章」とあったのですが、「わかるとはどのような事か」から始まり、中心となったのは「単にわかりやすいだけにしない、土屋さんなりの工夫」の話でした。

まず、「わかるとはどのような事か」については、「自分のことばでそれが説明できること」と明快です。そして、原文のレベルをそのまま保つこと、これが「単にわかりやすいだけはない」ということです。

後者を実現するために、土屋さんはご自分なりの基準-セーフティネットとおっしゃってましたが-を2つお持ちでした。その2つとは、

①情報量の維持
②データ量の抑制

です。

情報量の維持とは、読んで字のごとく、原文に含まれている情報を落とさずに訳すということです。と言っても、ある文章にどんな情報が含まれていると判断するか、それは全くの主観によると、土屋さんは展示説明の実例で説明されていましたが、確かにその通りです。原文のあまり一般的でない例えなどは上手く回避されていますが、別の訳者なら、元の言い回しを生かしてそのまま訳出するかもしれないし、微妙なところです。

もう一つのデータ量の抑制とは、原文の分量を訳文でもほぼ保つ、ということです。一般に、他の言語を日本語に翻訳すると長くなると言われていますので、締まった訳文にするにはそれなりの技が必要です。

同趣旨のことを、以前、孫玄齢先生から伺ったことがあります。孫先生も、上手い訳者なら、日本語訳は原文の中国語とほぼ同じ長さになる、とおっしゃっていました。その理由については特におっしゃってませんでしたが、土屋さんはこれを、「各民族で知的レベルには差がないのだから、同じ内容を伝えようとするなら、どんな言語でもほぼ同じデータ量になる」と説明されています。英語から日本語の場合は、日本語が漢字交じり表記である分、少し短くなるそうです。

もう一つ、これはあまり他では聞いたことがなかった工夫ですが、土屋さんは、文単位ではなくパラグラフ単位で訳を作られるそうです。確かに、英語文の基本単位はパラグラフですから、その中で意味が通るように訳文を組み立てるというのは理にかなっています。

土屋さんは訳文から連想される通りのダンディな方で、やっぱり文は人なりだなあ、という感想を抱きつつ、「翻訳者の腕の見せ所」をたっぷり堪能させて頂いた2時間でした。
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by silverspoonsjp | 2008-05-27 23:39 | 英語の本 | Trackback | Comments(0)