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本と読書をめぐる冒険


by silverspoonsjp
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Beowulf(ベーオウルフ)

見ないで終わってしまった映画とも(結局何だったんでしょうねーアレは)、
「指輪物語」とも特に関係なく、
ゲルマン英雄詩のretold版(英語初心者向けにやさしく書き直した本)として手にとってみたのです。

このシリーズは、お話を読みながら英文学や英語にまつわるトリビアも楽しめるので一石二鳥…と思ってたら、早速コラムにはKennings(ケニング)が登場。いきなりツボを突いてきましたねー。

ケニングというのは、詩の技法の一つで、ある決まった言い回しによって何かの単語を象徴する比喩のことです(アイスランドの神話「エッダ」の講義を受けたときに出てきて以来なので、旧友に再会したような気持ち)。

たとえば「兎より早く走る」といえば「カメ」とか(←こんなケニングありません)
「フロドのダイモン」といえば「サム」とか((C)よもやま。こんなケ…)

ベーオウルフの中のケニングとしては、
The Breaker of the Rings」
が紹介されていました。
Ringsを壊すものとは何のことでしょう?
答えは「王」です。その昔、王は黄金で出来た輪を身につけており、時にそれを壊して、家来に報奨として与えたことから出た比喩だとか。

何か、この単語の並び具合はどこかで…

と思ってると、やっぱり「The Lord of the Rings」とその著者・トールキン教授の「ベオウルフ研究」についても触れられて、ばっちり別コラムもあります。その辺、実に抜かりのない編集であります。

ほかにも、良い王の条件とは「強いこと、リーダーシップがあること、名誉ある死を重んじることに加えてユーモアのセンスがあること」とか、キリスト教とベオウルフ成立の関係とか、ゲルマン民族にとって剣がいかに神聖なものであるかについてとか、本編そっちのけでコラムに気を取られつつ読了致しました。

お話そのものはGeat族の勇者ベーオウルフがデーンのフロースガール王の宮殿に巣くう魔物と、その魔物の母を退治するという前半部と、老いたベーオウルフが、宝物を守る竜を退治する話という後半部から成っています。当然、後半部と「ホビットの冒険」との関わりは気になるところですが、宝を守る竜というのは、古来よく使われる物語のモチーフのようです。

二つの話は一見関係なさげですが、前半に出てきたフロースガール王がベーオウルフに与える忠告、すなわち、英雄も自らを恃み、ただ老いれば、魔物が忍び寄ってくるという言葉によってつながれています。

原文は古英語による詩なので絶対歯が立たないと思い(サトクリフはさらに読む気がしない…)、ずるしてリトールド版で粗筋だけつまみ読みをしてしまいましたが、なかなか面白かったです。

Black Cat Publishing
ISBN 9788853006363
by silverspoonsjp | 2008-07-10 23:34 | 「指輪物語」関連の本