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本と読書をめぐる冒険


by silverspoonsjp
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イギリス「窓」事典-文学にみる窓文化

ひごろ(SF以外の)小説はほとんど読まず、(SF以外の)小説を読むとなったら重箱の隅をつつくようなところばかり熱心に追求しているのでございます。

世間にお仲間は少なくないと見え、小説に出てくる何ソレを取り上げて一冊にした、という本は探せば結構あります。まあ、普通はレシピとか、小説の舞台になった場所とか、そんなものなんですけど、もう少し考現学的な部分に注目した本を面白く読んでます。以前、インテリアで読むイギリス小説という重箱隅本をご紹介しましたが、あんたも好きね、の類書がこちら、イギリス「窓」事典でございます。

こちらは前者よりさらに隅度がアップしており、登場する窓の用語は300以上、取り上げた小説は187におよびます。も、ち、ろ、ん、「指輪物語」も取り上げられています(マニアックな箇所ですが)。

しかし、気になったから「窓」を集めただけなら、単なる趣味の本ですけど、思うに、インテリアが英国の人の内面を表すものだとすれば、外との境界であり、しかも自分は中にいながら、あたかも外とつながっているかに思わせてくれる「窓」というものが、小説の中でどのように使われているかをテーマに据えるのは、なかなか上手い着眼点ではないでしょうか。

「上げ下げ窓」(sash window)の説明を見ると、この窓の細部の名称から、材料も含めた歴史的な変遷、なぜこの窓が珍重されたか(換気のしやすさや窓辺に花を飾るときに邪魔になりにくいなど)の考察、「まだらの紐」を含む、このタイプの窓が登場する小説の一節が紹介されています。

「フランス窓」(French Window)の項目を見ると、サキの「開いている窓」の引用があり、このタイプの窓でなければならなかった理由が解説されています。

ただ、名称の説明の項目では、この「フランス窓」のように、なぜ小説中に登場するのが「そのタイプの窓」でなければならないのか解説しているのは例外で、ほとんどは窓自体の説明と、小説の引用だけで終わってるのはちょっと残念です。紙幅の関係もあるんでしょうけど…。ただし、映画で窓が出てくるシーンについて言及している時は、割合突っ込んだ解説が載っています。

特に面白く読んだのは補遺の「窓の歴史」以降で、windowの語源(「風」の「目」)から始まり、ガラスがなかったころの窓、ガラスの窓…と続きます。

そうそう、日本の窓もガラスの前は「紙」だったんですよね…家に和室がないから忘れてましたけど。イギリスではリンネルや油紙、牛の角を薄く切ったものなどが使われていたそうです。ガラス窓は高価で、留守の時は取り外して保管し、引っ越しの時は外して新居にもっていったとか。18世紀になってもまだまだ貴重なものでした。

そんなに高い贅沢品なので、窓には「窓税」という税金がかけられていました。取り付けられた窓の数に応じて税金がかかる仕組みで、しかも所有者ではなく居住者から徴税したため、税金を払えない店子が窓をレンガでふさいでしまった跡が今も残る建物もあります。税金対策のためか、検査が入るときだけ窓をふさぐという荒技もあったという話は、今も昔も変わんないなーといったところでしょうか。

しかし、一番ビックリしたのは、この信じられない税金「窓税」、名前こそ「窓銭」ですが、中世・近世のニッポンにもあった、というくだりでした。

こういう本、持ってて悪くないと思うのですが、お値段がビックリ税込9600円、まさか窓税included?(ああっ!ガラスを振り回さないでくださいっ!!)個人で買うにはちょっとした勇気が必要です。470ページもあるし、良い紙を使っているので法外とは言えないけど、それにしてもねえ…。

三谷康之著
日外アソシエーツ
A5判 470ページ
4816920757
by silverspoonsjp | 2010-02-13 22:37 | 素敵なヴィジュアルの本