本と読書をめぐる冒険


by silverspoonsjp
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 通勤電車でへとへとになったり、心ない電話の応対をしたり、嫌な目に遭うと自分の心もすさんでしまいがちです。そんな時この本を読むと、心底ほっとします。

 お話はとても単純。美しい森に囲まれた夏の別荘で働く5台の電気器具は、とほうに暮れていました。もうまる2年(時間にうるさいラジオに言わせると2年と5ヶ月と13日)も、だんなさまがお見えにならないからです。自分たちは見捨てられたのではないか…。そんななか、一番ちびのトースターが、自力でだんなさまを探そうと提案します。
 ほかの4台の電気器具-電気毛布、掃除機、電気スタンド、ラジオと共に、車輪やバッテリーを捜し出し、かれらは見知らぬ都会へと向かいます。
 さまざまな出来事や危険にさらされながらも、だんなさまに会いたい一心でがんばる電気器具のけなげさに、心を打たれずにはいられません。
 話のあいまあいまに出てくる、電気器具なら考えそうな描写も微笑ましいものです。

 でも、このお話を聞いている小さな電気器具たちにいっておきます。ぼくもまねをしてみようという気になっても、これだけはくれぐれも注意してください。電気はとても危険なものです。古いバッテリーをけっしておもちゃにしてはいけません!知らない差し込み口にけっして自分のプラグをつっこんではいけません!それから、もし自分の住んでいる土地の電圧が何ボルトなのかよくわからないときは、かならず大きな電気器具にたずねるのですよ。


 
 古い電気器具を捨てるとき、誰もが心の奥底で感じるであろう後ろめたさを解消してくれる点も、なごみ感の秘密でしょうか。長崎訓子さんによる、チャペックの本の挿絵みたいな可愛い装画もポイント高しです。巻頭や本文中の詩も含めて、浅井久志さんの訳文はとてもこなれていて読みやすいです。  

浅井久志訳 
ISBN 4‐15‐011167‐7
ハヤカワ文庫 158p  早川書房 1996年

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・パット・マーフィー 『ノービットの冒険-ゆきて買りし物語』
 なごみ系SFの代表格はなんといってもこの作品。タイトルはもちろん、『ホビットの冒険~ゆきてかえりし物語』からのもので、キャラクター設定などを借りていますが、ただのパロディとあなどってはなりません。冒険好きのあなたには絶対おすすめの1冊でございます。
いま気づいたけど、これも『いさましい~』と同じ浅井久志さんの訳ですね。
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by silverspoonsjp | 2004-03-30 23:53 | センス・オブ・ワンダーの本
 ケイスは24歳。電脳空間<サイバースペース>デッキに脳を接続して、防御プログラムを鮮やかにかわし、データを盗む一流のカウボーイだった男。しかし、掟破りの代償として、彼は二度と電脳空間に戻れなくなっていた。いまや生ける屍となってチバ・シティの底辺を彷徨う彼に、電脳空間への復帰を餌として、危険な仕事が持ち込まれる。依頼人はアーミテジという男だが、その背後には…。
           *              *             *
 サイバーパンクSFの先がけにして金字塔、多くのSF映画は、いまだにこの小説の影響から逃れることはできていません。読みながらも、いかがわしげな未来の街角や電脳空間に没入<ジャック・イン>してしまいそうな感覚、猥雑なのにリリカルな描写、まさに麻薬的な魅力があります。
 そして、この邦訳。読みづらいところが面白いという、実に不思議な文章です。漢字とルビを駆使して、日本語の中に華麗なる仮想空間を展開しています。「冬寂<ウィンターミュート>」「迷光<ストレイライト>」「結線<ハードワイア>」など、字面を見ただけで面白そう。
 以下は、読み進めているうちに、ちょっと身震いしてしまったところ。

  少年は波打ちぎわで逆立ちし、笑い声をあげる。逆立ちのまま進んで、ぴょんと水辺から出る。眼はリヴィエラの眼だが、悪意はこもっていない。
 「悪魔を呼び出すには、そいつの名前を知らなくちゃいけない。人間が、昔、そういうふうに想像したんだけど、今や別の意味でそのとおり。わかってるだろ、ケイス。あんたの仕事はプログラムの名前を知ることだ。長い正式名。持ち主が隠そうとする名。真<まこと>の名―」
 「チューリング暗号<コード>はおまえの名前じゃない」
 「ニューロマンサー」
 と少年は、切れ長の灰色の眼を、昇る朝日に細め、
 「この細道が死者の地へとつながる。つまり、あんたが今いるところさ、お友だち」


 考えたこともなかったけど、確かにパスワードを使ってデータを呼び出すのと、真の名を呼んで悪魔を呼び出すという行為は一脈通じてるところがありますね。
 自分はいったい何者なのか、どこまでが自分といえるのか。普通の小説なら重すぎるテーマを、SFでは話の鍵として、ストーリーの中に織り込むことができます。電脳空間の中では、ケイスには肉体がありません。では、どこまでがケイスなのか?彼の感じる感覚とは誰のものなのか?
 メールやインターネットの世界に「身を置く」ことが可能になった今こそ、この作品で描かれている世界が、ようやく実感できるようになったのではないかと思います。

黒丸尚訳
ISBN 4-5-010672-X
文庫版 451p  早川文庫 1986年
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by silverspoonsjp | 2004-03-30 23:51 | センス・オブ・ワンダーの本
  表題作の「スーパートイズ」は3章からなる中篇小説。パパとママ、クマのテディに囲まれて暮らすディヴィッドは、母に愛されようと、いつもけなげに振舞います。母モニカも、何とか彼を愛そうとはするのですが、子ども時代に永遠に閉じ込められたディヴィッドを見ると、思わず後ずさりしてしまうのでした。

 ディヴィッドは窓の外を見つめていた。「テディ、ぼくがなに考えてるか知ってる?ホンモノとホンモノでないものをどうやってくべつするの?」
 クマはいくつかの選択肢をあれこれ探った。「ホンモノはいいものだ」
 「時間はいいものなのかな。ママはあんまり時間が好きじゃないみたい。こないだ、何日もまえのことだけど、ママは時間がただすぎていくだけだって言ってたよ。時間はホンモノなの、テディ?」
 「時計はときを告げる。時計はホンモノだ。ママが時計を持ってるってことは、きっと時計が好きなのさ。手首にもダイヤルのとなりに時計をはめてるだろ」
 ディヴィッドは手紙のうしろにジャンボジェットの絵を描きはじめていた。「きみとぼくはホンモノだよね、テディ?」
 クマの目はひるまずに少年を見つめた。「きみとぼくはホンモノさ、ディヴィッド」 このクマは慰めるのが得意なのだ。


 設定よりも、セリフで読ませるタイプのSFです。御察しの通り、ディヴィッドはアンドロイド。彼は自分を人間だと固く信じていて、いつかはママが振り向いてくれることを願っている。その切なさに、読んでいるこちらの胸が痛くなるほどです。ディスクが再生する、永遠に続く心地よい夏の幻影。まやかしの邸宅。そんなものに囲まれて暮らすママは、人間でありながら、読み手にはアンドロイドのようにさえ見え、それもまた痛々しい。
 スタンリー・キューブリック監督は、この作品を長編映画に仕立てようと考えて、あれこれプランを練りました。その辺の事情が、最後に1章設けて書かれています。キューブリックはこの話を『ピノキオ』になぞらえようとし、SF大作映画の方向へ持っていこうとしていたようです。かたや原作者のオールディスは、この物語を「自分の内なるものを知らないために苦しむ」物語であり、「われわれはみな、どの程度まで機械なのか?」という問いを突きつけられ、その後に、単純な物語が残る…と考えていました。
 結局、キューブリックの死によって映画化権はスティーブン・スピルバーグに移り、2時間半の大作『A.I.』となって公開されましたが、結局、母と子の絆に話の重心が移ってしまい、ちょっと残念でした。

中俣真知子訳
ISBN 4‐8124‐0738‐9
182 x 128  363p  竹書房2001年


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・P.K.ディック 『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』
 人間とは何か、自分にさえ確かにはわからなくなってくる、迷宮のような物語。 

・芦奈野ひとし『ヨコハマ買い出し紀行』
 こちらもロボットが主役の物語。ただし、本人も周りも、特に気にしていない模様。上記の文章中、キューブリックは「アメリカ人はロボットを脅威としか見ていない。ほんとうにロボット好きなのは日本人だ」と述べています。アメリカ人の方はともかく、日本人の方は当たってるのではないでしょうか。
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by silverspoonsjp | 2004-03-30 23:48 | センス・オブ・ワンダーの本

年度末

 今日は電車が空いていました。3月末に登校する学生さんが少ないせいでしょう。
 うちの会社は3月が年度末で、退職される方は明日が最後の出社日です。お疲れ様でした。
 入社したころは、定年退職される方は本当におじいさんおばあさんに見えたものですが(すみません)、今は本当に定年?と思うほど若々しい方が多いように思います。昔より、年をとるスピードが遅くなったのでしょうか。

 それとも、自分がその年齢に年々近づいていっているせいかな?
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by silverspoonsjp | 2004-03-30 11:24

ゴースト・ワールド


 イー二ドは、アメリカのどこにでもありそうな街に住むハイティーン。高校を卒業したばかりの彼女は、自分をもてあまし気味。親友のレベッカと、出会った大人をクサす毎日です。ある日、ナンパまがいの尋ね人広告を見つけ、冗談半分に相手を呼び出します。現れたのは見るからにくたびれたオタク中年・シーモア。からかってやろうと彼の後をつけた二人でしたが…・

 のっけから、モハマド・ラフィのテーマ曲「JAAN PEHECHAANHO」が流れ、アヤしさ爆発のこの作品。素か?!と思わせる、ソーラ・バーチのナイーブながらも小憎らしい演技が光っています(嫌いな相手に話し掛けられた時のあの顔、最高!)。古着の着こなしもお見事です。原作は同名コミックだそうですが、ちょっとしたボタンの掛け違いとか、友人とのずれ、疎外感なんかを、皮肉やユーモアではぐらかしながらうまいこと綴っています。ちょっとすねたつもりがロクでもない結果になるってこと、ティーンに限らず、誰にでもありがちですよね…。最後の余韻も心に残ります。
 ところで、ソーラ・バーチといえば「アメリカン・ビューティ」…なのはまともな映画ファンで、私がまず思い出したのは「愛に翼を」に出てたなーということです。そう思ってフィルモグラフィをチェックすると、レベッカ役のスカーレット・ヨハンセンは「ノース」に出演してたんですね。う~む、イライジャつながりか(いえいえ)。子役の世界は意外に狭いというべきか、何というか…。 

監督:テリー・ツワイゴフ 出演:ソーラ・バーチ他 2001年 
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by silverspoonsjp | 2004-03-29 20:22

吉野の桜

 今日は千鳥ヶ淵方面にでかけたため、横目でちらっとお堀端の桜を眺めました。8分咲きくらいでしたね。
 東京の桜はなんと言っても皇居のが一番と思ってるんですが、どうでしょう?

 去年のこの時期は、奈良の桜が満開と聞き、矢も盾もたまらず吉野山へ出かけてしまいました。しかも日帰り。

 東京方面からお出かけの方のために、一応行き方を書いておきましょう。
 東京(JR・2時間30分~3時間)→京都(近鉄・1時間40分ほど。直通はありませんが、1回乗り換えで行ける特急が1時間に1本程度あります。全席指定なので、近鉄京都駅で買いましょう)→吉野(終点です。似た名前がありますので注意)。
  本来はゆっくり歩いて登る山なのでしょうが、そうすると桜を楽しむどころか着いたらへとへとです。ここはバスを使って登り、下りを歩きにするのが賢明です。桜の季節ですと、駅前から臨時シャトルバスが上千本口まで出ています。まずはそれに乗り、次にバス停前の階段を上がって奥千本口までのバスに乗り換えます。主要時間は合わせて20分強くらいでしょうか。

 そこから西行庵まで往復1時間。バス停に戻ったら、歩いて高城山展望台や水分神社などを眺めつつ(バス道には桜がないので、下りにバスを使ってはいけません)、上千本口まで50分足らずのコースです。そこからバスで駅まで帰ってもよし、かなり時間はかかるそうですが、歩いて下ってもよしです。勾配が急なので、ハイヒールは危険です。

 奥千本から上千本にかけての見晴らしのよい道は本当に絶景です。吉野の桜は下、中、上と開花時期が異なりますので、地元の方のサイトで、開花状況をチェックしてから出かけるのが吉。 
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by silverspoonsjp | 2004-03-29 20:13

 西の岬には、気持ちのよい喫茶店「カフェ・アルファ」があります。ある日、店のオーナーは突然いなくなってしまいました。今は、緑の髪のアルファさんが一人できりもりしています。
 お店にはいろいろな人がやってきます。アルファさんは注文の品を運ぶと、自分もお客さんの向かいに座り、お話ししたりします。アルファさんはロボットですが、本人はじめ、そんなことを気にする人はいません。どこまでも広がる自然いっぱいの風景と、心優しい人々が登場する静かなストーリー。             *              *               *
 まるで『750ライダー』(の後半)を思わせる、なごみ度満点のマンガ…なのですが、物語の背景になっている土地(神奈川県?)は何かの原因によって破壊されつくした後らしいのです。文明が破壊されたあとの小さなユートピア社会という設定は、『未来少年コナン』を彷彿とさせます。
            *              *               *
 月刊誌連載なので、話はさっぱり前に進みませんが、それがまた良いんですね。嵐の日の描写。入り江での魚釣り。本の中から、虫の声や風のそよぐ音が聞こえてくるような錯覚さえ起こします。
 ただし、二度と地上には降りられない宇宙艇から下の世界を見守る、アルファさんそっくりの女性ロボットの存在や、ときどき姿を変えてしまう陸地など、なごやかな日常の裂け目に、不吉な影もちらちらと顔をのぞかせます。それが一層、残された平和を輝かせているのでしょうか。[アフタヌーンKC 講談社] 

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・萩尾望都『金曜の夜の集会』
 『半神』に収められた短編。マーモは元気いっぱいの小学生。平凡な両親、優しい姉さんと一緒に暮らしています。彼の夢は天文学者になることですが、さしあたっては背がもう少しのびること。巻き毛のセイラと釣り合うくらいに…。
 退屈で穏やかな日常の、悲しい結末を描く佳品です。
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by silverspoonsjp | 2004-03-29 20:09 | センス・オブ・ワンダーの本

 テートモダンのすぐ近く、テムズ川べりの遊歩道から一方入った裏手の道にある、店構えからして素敵な本屋さん。場所柄、現代ものが充実しています。ケースに麗々しく飾られたナンバー入りの本があるかと思えば、1ポンド、2ポンド、5ポンド均一の展覧会カタログも置いてあります。
 こちらで購入しました本はお値段1ポンド、Michael-Craig Martinの展覧会カタログ。ポップな色遣いが気に入ってます。サイトはこちら


43 Holland Street, London SE1 9JR
Tel:020 7261 0111

営業時間
Mon-Sat 10.30am-18.30pm (Sun 12-18)
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by silverspoonsjp | 2004-03-29 20:04 | 書店めぐり海外編

三省堂書店 神田本店

 この界隈では一番規模の大きい新刊書店です。新刊書のサイン会など、いろいろ催しものもやっています。
 品揃えは定番モノに強く、逆にいえば、あまり変わったものは置いていません。ただ、新刊書のフィーチャーの仕方が絶妙で、各階のエスカレーター前にあるコーナーは衝動買いを誘う危険地帯。十分気をつけましょう。
 2階の文庫コーナーは探しやすくなりました。また、各階の検索機械は在庫の有無や店内での置き場所も表示するため、とても便利です。  

 交差点を渡って向かいに「自遊時間」という雑誌と文庫中心の別館もできました。リニューアルもしてるんですが、あまり使えません。ただ、ここに入ってる上島珈琲の店はおいしいです。大丸東京店みたいに、本を持ち込めるといいんですが、そういうサービスはさすがに神保町じゃできないのかな?出版社の人に怒られちゃうもんね。やって欲しいですけど。
 
 三省堂書店のサイトはこちら

 
〒101-0051 
東京都千代田区神田神保町1-1 

℡ 03-3233-3312
営業時間
10:00-20:00
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by silverspoonsjp | 2004-03-29 19:59

東京堂書店

東京神田・神保町にある本屋さん。前は広い洋書のコーナーがありましたが、リニューアル後はなくなってしまいました。
 人文系に強い本屋さんで、1階の平積みをチェックすれば、近刊の面白い人文書はだいたいおさえることができると評判の、出版業界人御用達の店です。
 コアな本を揃えていることでも有名で、調べ物には欠かせない本屋さんです。
 最近では、品切れ文庫を売るコーナーが、売り場の隅にさりげなく設けてありますので、ご興味のある方はどうぞ。    

東京堂書店のサイトはこちら


〒101-0051
東京都千代田区神田神保町1-17

℡03-3291-5181
営業時間
10:00‐19:00
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by silverspoonsjp | 2004-03-29 19:55