本と読書をめぐる冒険


by silverspoonsjp
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いやー、ホントに今日はびっくりしました。

お休みだったんで映画を見に行ったんですけど、上映途中でいきなり地震が。
1回揺れただけで、そのまま上映は続きました。

終わってロビーに出てようやく、地震ではなく、近くで爆発事故があったと知りました。
しかも現場は、たった2ヶ月前に住んでいた家から500メートルと離れてません。
もし元の場所に住んでたら、映画を観るときは必ず前を通っていた場所です。
次の回を見るつもりなら、巻き込まれてたかも。

外へ出ると格段煙も炎も見えず、あまり被害はなかったのかとそのときは思ったのですが、これまで見たこともない数の消防車が集結し、救急車が通りから外へ溢れるほどやってきていたところを見ると、かなりひどかったのでしょうか。せめて被害が最小限であったことを祈ります。

さて、本日のエントリーは上記、ラテン語学習本でございます。
この本には本当にびっくり、まさにセンス・オブ・ワンダー本です。

だって、「~語のしくみ」シリーズの統一仕様とはいえ、ラテン語本でCD付きですよ!?

ラテン語といえば、死語でありながら未だ至るところで使われている、日本人にとっての漢文みたいな言語です。死語というからには、当然、習うといえば書き言葉なのかと思ったら、なんと、本の頭からしばらくは、ずーっと発音練習なんですよ。

しかしこれはなかなかナイスな構成で、意表を衝かれると同時に、すぐにラテン語の世界に入っていけました。なにしろラテン語はローマ字読みなんで、書いてあることがすぐにスラスラ発音できてしまいます。

まったくの初心者なのに

「われ思う。ゆえにわれあり」(コーギトー・エルゴー・スム)

なんて難しい文章がすぐ読めちゃう嬉しさ(ラテン語の表記が上手くブログで出ないので、原文は本を見てチェックしてくださいね)。この達成感が思いっきりモチベーションを高めてくれます。しかも、この文章、御覧の通り真ん中の発音がのびるので、発音してみると思いっきりマヌケなんですよね…

第2課に行くと、もう速攻、遺跡に書いてあるラテン語が発音できちゃうし、意味もわかっちゃう。ラテン語は難しいって聞いてたけど、なーんだ、簡単じゃーん。(←と思わせる見事な作戦)

例文も良く考えてあって、おおと思うようなのが挙げられています。聖書、文学のみならず、文具好きにも良く知られている「クオ・ウァディス(あなたはどこへ行くのか)」とか、P.S(ポストスクリプトゥム・追伸)とか。

ま、私は直接業務でラテン語は関係ないんで(?)、個々の単語の意味はどっちでもいいんですが、それでもラテン語にまつわるあれこれのエピソードは面白く読みました。

例えば人名は、個人名・氏族名・家名となっており、
ガーイウス・ユーリウス・カエサル といえばユーリウス一族のカエサル家のガーイウス君という意味だそうですが、いかんせん個人名のレパートリーが少ないので同姓同名さんばっかりになってしまい、大小を付けて呼ぶとか。(大カトー、小カトーとかね。ちなみに、この大小は年長年少という意味だそうですが、それぞれMilor,Minorと書きます。メジャーなカトーとマイナーカトーって覚えてしまいそう…)

口語は戯作の中に残っているということで、ちゃんと話し言葉のレッスンもあります。答えの「はい」という言い方がないというのも面白いです。代わりに、「そうです」「確かに」に当たる言葉で答えるんですって。何か、時代劇で「如何にも」「左様」といい「はい」って言葉がないのを連想しました。

後半に行くと、前半ほどのキレはなくなって来るんですけど、日本の建物に刻まれたローマ字を読んでみたり、グレゴリオ聖歌「グロリア」を解読してみたりと、最後まで飽きさせず、新鮮な驚きを提供してくれます。

本のサイズも新書判がちょっと大きくなったくらいで読みやすいです。

小倉博行著
白水社
1600円
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by silverspoonsjp | 2007-06-19 23:30 | その他のことばの本 | Trackback | Comments(2)

中国語翻訳作法

NHKの語学テキストは4月が一番売れるんだそうで、テキストに載せる広告料も高いとか。

6月になると、うんと下がるんですって。
皆6月には諦めちゃう(飽きちゃう?)んでしょうか。

そんな方にお送りする本日のエントリー、ずばり、ここ数年出た語学関係の本の中でもダントツにオススメな本です!

だって、中国語でしょ…?関係ないもん。
なんておっしゃらずに。
幸い、中国語なら字面を見ればある程度理解できるので(なんていうと、中国語の先生に怒られてしまいますが)、他の外国語を勉強している人にも、あるいは日本語について考えてみたい人にも面白いと思います。

さて、早速ですが、この文章、どんな意味だと思います?

「ティッシュお持ちの方、2000円割引」

え、街頭で配ってるポケットティッシュの裏の広告でしょ?それを持って提示したら安くなるって話じゃないの?

結論からいうとその通りだけど、一体この言葉のどこからそういう判断が出たのでしょうか?

この文章を訳すとき、無意識に辞書で「ポケットティッシュ」を引いてしまうけど、それはなぜだろう。逆に中国の人がこの文章を見たら、家にある箱入りのティッシュを持ってくるかも知れない。だけどそれは嫌がらせじゃなくて、中国語ならごく普通に

「このポケットティッシュにあるこの広告を持った人はみな2000日本円を値引きします」
(持有本紙巾上広告的客人一律優恵2000日元)


と書く以上、それは起こるべくして起こる誤解だ、と著者の王先生は言います。

そんなことを言うと、またぞろ「日本語は論理的でない」という話になりそうですが、そうではなく、日本語を話す人同士には共有のファイルがあって、キーワードによってそこから共通の情報を引き出すという特徴がある。逆に中国語では受け手が共有ファイルを持たないという前提で話をするから、多くの言葉を発信するのだと。

本の冒頭にはルディ・ラッカー著のこんなSF小話が載せられています。

「ある刑務所では、夕食後、囚人が食堂にあるステージに上がって大声で数字を叫ぶ。すると皆どっと笑う。困惑する新入りに古株の囚人が説明することには『なにせ皆長いこと刑務所にいるので、刑務所の図書館に置いてある「ベストジョーク1万句」を暗記していて、そのジョークナンバーを言うだけで笑えるのさ』」

ジョークのファイルを持ち、パスワードを言えば中味がわかる受け手と、最初からファイルをダウンロードしてこないとわからない情報の受け手。この違いに注意して情報を発信すべきだというわけです。

そういわれてみると、本文で挙げられている日本語の例は確かに、ごく普通に見かけるけど新入りには??なものばかりです。

「ご相談はお近くのトヨタまで」>(恋の悩みとかも)?
「雨だ」(中国語なら「外で雨が降り出した)」
「切り落としの販売は午前10時からです」 (ホラーか?)

「頑張らなくてもいいから」(はい?)
 「『世界の車窓から』」 (…話は終わり?)
「国会議事堂人形焼き」 (人じゃなくて国会議事堂の形をしてるんですけど…)
「時計の長針、短針、秒針」 
(中国語なら「時針、分針、秒針」) 


「雨だ」の日本語ネイティブから見ると、中国語はすごくくどく感じるかもしれませんが、中国語話者にはごく普通です。その辺の感覚の違いは、最近の商品マニュアルについて思い出すとわかりやすいといいます。

「赤ちゃんと一緒に畳まないでください」と書いてあるベビーカー、
「洋服を着たままでは使わないでください」と書いてあるアイロン、
過剰に見えるこれらの説明文は製造物責任法に乗っ取って書かれています。中国語のくどい文章はシステムのマニュアルに乗っ取って書かれたに過ぎず、中国語のシステム内では「外で雨が降り出した」は日本語の「雨だ」以上の意味はないのです。

この違いを踏まえつつ翻訳作業をするというのが如何に大変かわかりますよね(泣)。しかも対訳だったりすると…。中国語をそのまま訳せばくどいし、日本語では省略してしまうような前提をいちいち言葉に出すので、そのまま日本語にすると説教くさくなり、下手すれば尊大とか偉そうとか誤解される(中国語ネイティブには全然そんなつもりはない)。省略すれば訳者が怠慢と責められる。

逆に日本語から中国語への訳は、原文に書いてないことも補わなきゃいけない。何がわかんないんだかがわかんない!勝手に文章を足してもいいの?さあ、どうする…。

その辺の具体的な秘訣は本文を読んで頂くとして(すごく勉強になりましたですよ。漢字しかない中国語で、どんどん入ってくる外来語はどうしてるんだろうとかね…)、この本の優れたところは、そうした違いをきちんと分析して、わかりやすく説明してくれるところでしょう。

たとえば、日本語では形容詞が形容できる範囲が広いので、「おいしい生活」と言えたり、「よい値段」「よい本」「よい車」と何にでも「よい」をつけてしまえます(ちなみに、それぞれのこの「よい」の中味は何なんでしょうね)。中国語では形容詞と名詞の組み合わせが固定的なので「歓迎」だったら「熱烈」なんですよ!

逆に、日本語では名詞が非常に細かく、ごく普通の会話でも「カーディガン」「セーター」「タートルネック」と、使い分けますが、中国語だったら「毛衣」(セーター)一発でOK…(もちろん、中国語の名詞の使い方は単にざっくりしてるわけじゃなく、厳格なこだわりがあるのですが、その点については本文をご覧下さいね)とまあ、思わず膝を打つ話が満載です。

本文は中国語の先生と中国語を学ぶ学生の問答形式になっていて、読みやすいです。

公式HPはこちら

王浩智 著
東京図書
2200円
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by silverspoonsjp | 2007-06-18 00:01 | Trackback | Comments(0)