本と読書をめぐる冒険


by silverspoonsjp
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天皇陛下の全仕事

知ってるようで知らないのが天皇陛下のお仕事。

ということで、宮内庁担当記者だった著者が、
天皇陛下の日常業務について解説している本を読んでみました。

社会科でも習ったし、報道されているお仕事もあるし、その大変さは
だいたい予測がつきますが、それを上回る激務です。

思いもよらない仕事が重要な事もあります。たとえば、国体や植樹祭など決まった行事への出席。これらは各県持ち回りで開催されるため、地方を訪問することになるわけですが、なんと、飛行機なら空港まで、新幹線なら東京駅まで、首相がお見送りに来るそうです。(知らなかった…)

他にも、国家の象徴としての立場から、あれこれ気を遣わなければいけない点があり、その辺も考えるだに大変そうです。

それにしても、何がキツイって、「天皇の国事行為」と決められている仕事は、入院か外遊でもない限り、他へ投げられないことあたりでしょうね。
国会を召集するとか、総理大臣を任命するとかは、そうしょっちゅうはないでしょうけど、法律や条令を公布するとか、栄典を授与するとか、細々したものが結構あり、書類の決裁だけで週2回、午後かかりっきりになってしまうそうです。

事務仕事以外にも、接見とか、奉仕団の人への挨拶とか、気疲れしそうな仕事がてんこ盛り。週休二日にならない週も多く、代休もままならない。
この状態が定年もなく、退位するまで続くんですよ。
法律によって「生活のかなりの部分がほぼ自動的に決定済み」な生涯とはどんなものなのか、想像もつきませんが、本書で見る限りでは、本当にお気の毒な印象です。

おかげさまで日本の伝統が守られている面はあるのでしょうが、
(とかいって、実はほとんど明治に作られた伝統だったりするけど)
だからってこれで良いのかという気はします。
日本で一番「滅私奉公」してる人が今上陛下とは(泣

ここで図らずも、数年前に日本でも公開された、スティーヴン・フリアーズ監督の「クイーン」を想い出してしまいました。イギリスのエリザベス現女王を主役にした映画です。

映画の中では、労働党の党首であり、ある種究極の反対勢力とも言えるブレア首相が、エリザベス女王には敬意を持って接する姿が描かれていました。女王は、自分の義務と役割に忠実であろうと努力し、公人として自らを律しています。その姿勢からは、おのずと品格がにじみでています。
 
自分の都合より義務や原則を優先するとは、言うは簡単ですが、いろいろな意味で難しいことだと思います。女王も戦中・戦後の厳しい時代をくぐり抜けてきたので、「不自由な生活」にも耐えられるということはあるのでしょうが…。

ただ、品格を保つということはその一方で、失うものも大きいと、映画を見たときには感じました。ある決められた秩序からはみ出さず、変えるよりは忍従によって自分を律する姿勢は崇高ではありますが、これからの未来、それだけでやっていくのはなかなか難しそうな気配です。

本書は「クイーン」とは異なり、天皇陛下の信条や発言などが取り上げられる訳ではなく、ほとんどがお仕事の内容について淡々と記しており(仕事を通じて人柄を描いている箇所もありますが)、好感のもてる書きぶりです。

講談社現代新書
山本雅人
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by silverspoonsjp | 2009-03-08 22:36 | センス・オブ・ワンダーの本 | Trackback(1) | Comments(6)

砂糖のイスラーム生活史

やっと書斎に帰って参りました(←休みもないのに一体どこから…?;)。
もろもろ放置で申し訳ございません。本は結構たくさん読んでたんですが、たぶん、ここのところ私が読んでた本は、ご興味のある方も少ないのではないかと(「イブラヒム、日本への旅」とか、どうでしょう…?)

これからご紹介する本も、普通に読んで面白いという本とはちょっと違うと思いますが、とある話題の「番外編」ということで、お付き合いくださいませ。

内容は読んでタイトルのごとしでございまして(ここまで名が体を表す本も珍しい)、イスラム世界の生活と、砂糖とのかかわりを記した本です。

イスラム圏に旅行された方ならお気づきかと思いますが、向こうのお菓子ってものすごく甘くありません?
左党がいないので皆が甘党なのか、その辺の因果関係はよくわかりませんが、むくつけきヒゲのおっさんが蜜づけのお菓子を嬉しげにつまんでいる図はなかなか微笑ましいものがございます。

この本におっさんとお菓子の関係については書いてないんですけど、ラマダーン月に断食をした後、すばやく体力を回復するため甘いものを食べる習慣がある、ということは書いてあるので、その辺は多少関係あるのかも知れません。

断食の月には、スルタンが砂糖で人形や宮殿などを作らせ、市場を巡回させたという11世紀の記録もあるそうで、砂糖が貴重だったころにはおっさんばかりでなく権力とも関係があったのです。

それにしても、ゾロアスター教の本を読んだときや上記の「イブラヒム…」を読んだときも思ったんですけど、イスラム諸国は一つの世界としてつながっていて、物や人や知識が結構ダイナミックに移動するみたいですね。本書はアラビア語史料を使って書かれているのが一つの特色で、北イラクに生まれた商人がエジプト、マグリブ、アンダルシアまで旅して書いた地理書(大地の形態)なんかが文献として挙げられています。

地理書のタイトルも、「世界を深く知ることを望む者の慰みの書」だって。

原書でどんなニュアンスなのかはわかりません。まあ、普通は、そう簡単には住んでる土地を離れられないでしょうから、そういう含みもあるのかしら……。

というわけで、イスラム世界ではどんな風に砂糖を栽培してたかとか、どう使ってたかとか、どんな薬効があると思われてたかとか(「目に効く」らしい…)、砂糖一つとってみても、いろいろ見えてくるのが面白い訳ですが、この本を手に取った個人的な理由は、なんと、先日来追求している(?)テーマなのでございます。

それは「ゲニザ」(ユダヤの教会にある、古い文書を保管しておく部屋)。

イスラムとゲニザ(ゲニーザ)と、何の関係があるのでしょうか?

答えは、本書の第4章、「砂糖商人の盛衰」にあります。ベニスの商人の昔から、目端の利く商売人といえば、それはユダヤ人。当然、ユダヤの砂糖商人はイスラム世界でも大活躍なのであります。

その裏付けとなるのがカイロで見つかったゲニザの文書。
10世紀から13世紀までの契約文書や家の系譜、裁判記録、物価の報告、商品の買い入れなどさまざまな内容でカイロ・ゲニザ文書として知られ、散逸したもの以外はケンブリッジに集められ、テイラー・シェヒター・コレクションとして伝えられてきました。

この文書を使って、ゴイテインという学者がイスラーム社会におけるユダヤ教徒の歴史的役割を考察し、「地中海社会」という六巻本にまとめた、とあります。ちょうどこの文書の集まった時期は、文化の中心がイスラム圏からキリスト教圏に移っていった時期にあたるので、どちらかが一方的に優位な時代に比べると交渉も盛んだったのではと思われます。

昨年イタリアを旅行して以来、イタリア(フランスも)とイスラム圏との関わりが気になっていたのですが、なかなかイスラム側から見たものがなかったので、ここでようやく少しつながりが見えてきました。またブローデルの「地中海」あたり、読み返してみようかと思っております。(あの翻訳が体質に合わないので、あまり進まないんですけど…)

砂糖のイスラーム生活史
佐藤次高 著
岩波書店
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by silverspoonsjp | 2009-03-03 23:42 | 人文科学の本 | Trackback | Comments(2)