ゾロアスターさんはこう言った。
2009年 02月 02日
まともな人なら、じゃ、ここで一丁、このタイトルの元になったニーチェの「ツァラトゥストラはかく語りき」を読んでみますかね、となる訳ですが、
青木健 著「ゾロアスター教史」(刀水書房)
2色印刷の地味な表紙を見たとたん、一体何の間違いで、ニーチェよりこっちの方が簡単に読めそうだと思ったんだろうと後悔しました。…でも序論の2ページくらい読んでみたら意外や面白く、一気呵成に読み終えてしまいました。
だいたい、私が世間知らずなだけかも知れませんが、この21世紀に、拝火教徒が存在していること(しかもインドでは財閥として結構な勢力を築いており、インドつながりで言えば、クラシックファンならご存じの指揮者ズービン・メータやロックバンド・クィーンのフレディ・マーキュリーもゾロアスター教徒)、ニーチェつながりでは、イエス・キリストをも凌ぐアーリアの超人としてあのナチスが持ち上げ、熱狂的に研究していたこと、等々の事実には驚かされましたし、実に興味深いものがあります。
してみると、日本語でツァラトゥストラ/ザラスシュトラ/ゾロアスターを書き分けてるのは単に、ドイツ語/元来の読み/英語経由という、それぞれの発音の由来を書き分けたいという語学オタク的なこだわり以上に、由来の「含み」を表現したいという欲求が働いてるんでしょうね。
本来のザラスシュトラはと言えば、実体がよくわからない宗教家であったらしいのですが、彼の事を伝え聞いたローマ人やヨーロッパ人が勝手に神秘的イメージを付け足して理想化し、尾ひれが付け加わっていったようです。
この本は看板に偽りなく「教史」なので、教えの伝播や変遷に焦点があり、ゾロアスター教の中身そのものについては補足的な扱いです。そのため、もう少し教義そのものについて知りたいと、懲りもせずもう1冊読んでみました。タイトルはズバリ、
「ゾロアスター教」(講談社選書メチエ)
著者は「教史」と同じく青木健さんです。
こちらの方は、教義や儀礼について、もっと詳しく書いてあります。現代に残る儀礼も写真付きで紹介され、儀式で使われるナゾの植物ハオマ草の現状や、イスラム化したイランに今も残るゾロアスターの伝統(詩を暗唱してる人がエライとか、緑が好きとか…)またまた興味深い話題満載なのですが、読みやすさを優先してか一つの話題が短いので、ダイナミックさでは「教史」に一歩譲るように感じました。
さて、「教史」によりますと、「ザラスシュトラがかく語った」内容とは、世界は善と悪の二つの勢力の戦いである、という考え方や、善悪どちらにつくかは個人の選択である、という人間の自由意志の存在、その選択に伴って死後の行き先が決まるという考え方、個人だけでなく世界にも終末があるという終末論、救世主の出現を予想する思想などだそうで、そうだとすれば、キリスト教や仏教、イスラム教などに直接間接に与えた影響は確かに多大なものがあります。
とは言え、後から付け足された「東方の大賢人」というイメージもかなり当社比300パーセント増しくらいのバブリーな評価になってるらしいですね。
そこで、話は最初にもどって「2001年」との関係をつい考えてしまう訳ですが、ニーチェは、ツァラトゥストラの名に仮託して「神は死んだ」「超人思想」「永劫回帰」の思想を語っている(と、「ツァラトゥストラはかく語りき」のあらすじに書いてある…(爆))なので、その辺が映画のテーマ曲に使われる理由なんでしょうね…。さすがキューブリック監督。