天皇陛下の全仕事
2009年 03月 08日
ということで、宮内庁担当記者だった著者が、
天皇陛下の日常業務について解説している本を読んでみました。
社会科でも習ったし、報道されているお仕事もあるし、その大変さは
だいたい予測がつきますが、それを上回る激務です。
思いもよらない仕事が重要な事もあります。たとえば、国体や植樹祭など決まった行事への出席。これらは各県持ち回りで開催されるため、地方を訪問することになるわけですが、なんと、飛行機なら空港まで、新幹線なら東京駅まで、首相がお見送りに来るそうです。(知らなかった…)
他にも、国家の象徴としての立場から、あれこれ気を遣わなければいけない点があり、その辺も考えるだに大変そうです。
それにしても、何がキツイって、「天皇の国事行為」と決められている仕事は、入院か外遊でもない限り、他へ投げられないことあたりでしょうね。
国会を召集するとか、総理大臣を任命するとかは、そうしょっちゅうはないでしょうけど、法律や条令を公布するとか、栄典を授与するとか、細々したものが結構あり、書類の決裁だけで週2回、午後かかりっきりになってしまうそうです。
事務仕事以外にも、接見とか、奉仕団の人への挨拶とか、気疲れしそうな仕事がてんこ盛り。週休二日にならない週も多く、代休もままならない。
この状態が定年もなく、退位するまで続くんですよ。
法律によって「生活のかなりの部分がほぼ自動的に決定済み」な生涯とはどんなものなのか、想像もつきませんが、本書で見る限りでは、本当にお気の毒な印象です。
おかげさまで日本の伝統が守られている面はあるのでしょうが、
(とかいって、実はほとんど明治に作られた伝統だったりするけど)
だからってこれで良いのかという気はします。
日本で一番「滅私奉公」してる人が今上陛下とは(泣
ここで図らずも、数年前に日本でも公開された、スティーヴン・フリアーズ監督の「クイーン」を想い出してしまいました。イギリスのエリザベス現女王を主役にした映画です。
映画の中では、労働党の党首であり、ある種究極の反対勢力とも言えるブレア首相が、エリザベス女王には敬意を持って接する姿が描かれていました。女王は、自分の義務と役割に忠実であろうと努力し、公人として自らを律しています。その姿勢からは、おのずと品格がにじみでています。
自分の都合より義務や原則を優先するとは、言うは簡単ですが、いろいろな意味で難しいことだと思います。女王も戦中・戦後の厳しい時代をくぐり抜けてきたので、「不自由な生活」にも耐えられるということはあるのでしょうが…。
ただ、品格を保つということはその一方で、失うものも大きいと、映画を見たときには感じました。ある決められた秩序からはみ出さず、変えるよりは忍従によって自分を律する姿勢は崇高ではありますが、これからの未来、それだけでやっていくのはなかなか難しそうな気配です。
本書は「クイーン」とは異なり、天皇陛下の信条や発言などが取り上げられる訳ではなく、ほとんどがお仕事の内容について淡々と記しており(仕事を通じて人柄を描いている箇所もありますが)、好感のもてる書きぶりです。
講談社現代新書
山本雅人